先月の大統領候補討論会は我が家の小中高生3人と視聴した。フタを開けてみてようやく分かったことだが、とても子どもに見せられる代物ではなかった。相手をさげすむ言葉の応酬と話を聞かない大人の醜態は「他山の石」にするにしてもひどすぎた。片方が「あなたは歴代最悪の大統領だ」と口を挟むと、小3男子は「それ言っちゃったか…」とポツリ。司会者の制止を押し切ってしゃべり続ける候補者には、批判も通り越して3人ともあきれ顔を見せた。
 だからこそ今回は期待していた。ところが、だ。
 7日夜に行われたペンス・ハリス両氏による副大統領候補討論会は、主役をハエに持っていかれた。ペンス氏の頭髪に2分ほど1匹のハエが止まったのだ。一糸乱れぬよう整えられた副大統領の白髪がその存在を余計に際立たせた。モニターで気付いたのか、本人もハエの存在を確認するような仕草を数回繰り返した。
 「人種差別問題」や「白人至上主義」の重要テーマを議論するさなかの出来事だったが、ペンス氏が何を言おうと視聴者はもうハエにくぎ付け。
 直後から、各ソーシャルメディアにはハエ付きのペンス氏画像が登場した。頭上の拡大画像はもちろんのこと、「臭いから止まってみた」「誰の頭かなんて知らなかったけど…」などの吹き出し付きも瞬時に出回り始めた。「今年度米国俳優協会賞最優秀俳優賞はこのハエに!」などと、討論会の勝者がペンス氏でもハリス氏でもなかったことを皮肉った投稿も。
 翌朝のソーシャルメディアは、まさにハエが主役の祭り状態。時事ネタTシャツが人気の通信販売サイトがこの商機を逃すはずもない。民主党の青色をあしらったハエたたきやハエのイラスト付きマスク、「ペンス副大統領の頭上のハエ」をデザインしたおもちゃまでも一夜にして現れた。商魂たくましいとはこのこと。
 というわけで、高校生愛用のチャットアプリや子どもが面白がって見るGIF画像の格好のネタと成り下がった4年に1度の討論会。翌日の授業では話題にも上らなかったらしい。話がそれることを思えばそれが正解だっただろう。【麻生美重】

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