その日は夜まで暑かったので、今年はじめて窓を開けたまま眠りにつこうと目を閉じたが、何かがおかしい。何かが。何が?
 真夜中である。真夜中だというのに、戸外で鳥がピーチクパーチク大合唱している。これって、普通だろうか?
 夜に鳴く鳥といえばフクロウ。それは真夜中の森で「ホー」と鳴く。夜鷹(よたか)という名に浮かぶのは鳥よりも時代劇に出てくる「その道の女性」。そもそも鳥は鳥目で夜は活動できないのではなかったか。
 しばらく布団の中で考えたが、何しろ戸外の鳥のさえずりが騒々しすぎる。寝るどころではなくなり、電気をつけ、ウェブに答えを探すことにした。
 「シャザム」というアプリがある。流れる音楽をスマホに聞かせれば曲名や歌手を教えてくれる。だったら「鳥版のシャザム」もあるかもと探したら、ビンゴ。すぐに無料アプリをダウンロードして、集音のために真夜中の庭に出た。深夜0時半。
 Song Sleuthというアプリは、鳴き声を数秒録音すると、「まれ」「よくいる」などのラベル付きで3種類ほどの候補を送り返してくる。「チュンチュン」「ピロロロ」…。鳴き声だけでどれほど正確に種類を見抜けるものかとも思うが、この探偵アプリによれば、私の眠りを奪ったのはWhite Crown Sparrow、American Robin、Red Tailed Hawk、House Finchなどという。それにしてもいろいろな鳥が鳴いていた。うそだと思うなら録音が残っている。
 翌日、昼間に鳥の鳴き声を聞いた私は、姿を目視したくて庭に出た。「夜中に騒音は迷惑ですよ」とも言ってやりたかったが、電線にとまっていた鳥は、何メートルも先に私を認めた途端、飛び去っていた。非常に用心深い。
 最近は耳も慣れて眠りに支障はなくなったが、戸外の音に敏感になった。静かな時間が続いた後、鳥たちは、突然、騒ぎ出す。一体、何羽いるのかと耳を澄ます。日中はそれに、上空を通過する飛行機や近所の家が使うチェーンソーの音などがかぶさる。音楽を聞いてギター、ベース、キーボードやドラムの絡まる音を聞き分けていく作業と似ている。今までやり過ごしていた音の世界の探訪は案外楽しい。
 だが、鳥は何ゆえに夜中に騒ぐのか。その理由は謎のままである。【長井智子】磁針

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