今年(昨年公開作品)のアカデミー賞作品賞は「アルゴ」が栄冠を勝ち取った。1979年イラン革命中にテヘランのアメリカ大使館が占拠された。その直前に脱出した6人の外交官たちは近くのカナダ大使公邸に身を潜める。CIAが企てた救出作戦とは……?
 政治的な背景に奇想天外な展開、ドラマありコメディーあり、クライマックスはハラハラドキドキのスリラーあり、と盛りだくさんの娯楽映画だ。
 アメリカが知恵で勝利した事実に基づくストーリーであることや、スーパーヒーローではなく身近に感じるキャラクターたちであることが投票するアカデミー賞会員たちの心を揺さぶったのだろう。
 だが、監督のベン・アフレックは監督賞の候補にもあがらなかったという不思議な現象が起きた。まるで召し上がった料理は格別だと絶賛されるが、その料理長は評価されなかったかのようだ。
 ベンは作品のプロデューサーとしてオスカーを手にすることができた。ちなみに作品賞の受賞者として舞台に上がれるプロデューサーは3人までと決められている。
 全候補作品を見たわけではないが、個人的に好きなのは「リンカーン」と「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日間」だ。
 「リンカーン」はスティーヴン・スピルバーグ監督しかり、誠にしっかりとストーリーが描かれている。映像作りも気品があり重みがあり安心して見れた。ダニエル・デイ=ルイス(主演男優賞受賞)は、リンカーン大統領って本当にこのような人物だったのだろうと感じてしまうほどの熱演だった。修正法案を通すためには手段を選ばない頑強な政治家だったのは意外だった。
 監督賞を受賞したアン・リー監督の「ライフ・オブ・パイ」は、3Dを駆使した華麗なるビジュアルも素晴らしいが、神話的ストーリーが見事だった。サバイバルを通して命の尊さを考える哲学的ドラマだ。ほとんどのシーンが海を漂流するインドの少年とトラだけだ。制作費1憶2000万ドルを投じ、全世界の興収は6憶ドルにも及ぶ。有名なスターが出演せずとも大ヒットする、と証明した不思議な映画だ。映画ってやっぱり面白い。【長土居政史】

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です