私見だが、聡明な女性は料理も上手(じょうず)な人が多い。けれど、料理が上手な女性は皆が聡明かというと、必ずしもそうではない。世にいう「逆は必ずしも真ならず」、そこがまた味わいのある人間模様ともいえる。
 食べることは生きていくうえで、欠かせない。毎日のように、外食や出来合いの料理をお店で求めて食事を済ませている人は別として、キッチンで鍋釜と向き合って料理しないと腹は満たされない。家族のある人は、人数分を料理しなければならないから、炊事洗濯掃除といわれる3大家事の中でも、料理は大変な仕事だ。
 ひところ、「台所は女の聖域、男は厨房に入るべからず」といった風潮があった。今でもそれをいいことに、料理は女性まかせと考えている男性は多いのかもしれない。けれど、リタイアして時間をもてあましていたり、配偶者に先立たれた男性などを対象とした料理本が最近、売れているという。
 「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり」(土佐日記)に倣って言えば、「女もすなる料理といふものを、男もしてみむとてするなり」なのである。一念発起してキッチンに立つ男。なんとも微笑ましいではないか。料理をおろそかにしていると、いずれはカップヌードル漬けの生活になるやも知れぬから、男もどんどんキッチンに立って料理の腕を磨くべきだろう。
 ところが、男が料理をするとキッチンが汚れる、後片付けをしない、高価な食材を使いたがるのでコスト高になるといった不満も主婦サイドから聞こえてくる。でも、ここは気持ちよくキッチンを男性に開放すればいい。そして余計な口出しはせず、上達したらほめてあげるような母親の気持ちになって見守ってやればよい。
 男は、ある意味で単純だから、ほめられたら直ぐにその気になる。「今日の料理は、愛情という名の隠し味を使った」なんて、キザっぽく男が言い放っても、ニッコリ笑っていればいい。時にはうまいものを食べさせてくれるかもしれない。【石原 嵩】

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