自分を育ててくれた愛する父母が、自分の知らぬ間に暴力を振るわれていたら。信頼して預けたはずの施設でそのような事態が起こっていたら、後悔、自責の念とともに、弱者を狙った卑劣な行為に怒りを抑えることはできないだろう。
 先日、ショッキングな日本のニュースを目にした。厚生労働省が行なった2016年度の調査結果によると、特別養護老人ホームなどの介護施設で高齢者が職員から虐待を受けた件数は452件。驚くことに、虐待件数は10年連続で過去最多を更新しているという。
 施設の職員から虐待を受けた被害者は870人にのぼり、虐待の種類では、殴る蹴るなどの身体的虐待の割合が最も多く、次いで暴言を吐くなどの心理的虐待、おむつを替えないなどの介護放棄が続いた。そして被害者の7割が女性だった。
 14年に起こった川崎市にある老人ホームで職員の男が高齢者3人をベランダから転落させ殺害したとされる入所者転落死事故。昨年には東京の老人ホームで入浴介助を行なっていた職員が、パーキンソン病を患っていた居住者の男性の鼻や口を浴槽につけ窒息死させる事件も起こっている。死亡した男性の首には締められた痕も残されていたという。耳を疑う事件ばかりで被害者、そして家族のことを思うと胸が張り裂ける思いだ。
 そんな中、今介護の現場で活躍が目覚ましいのが人工知能「AI」を搭載したヒト型ロボットだという。今のロボットは会話や体操ができるだけでなく、昭和の歌謡曲までプログラミングされているらしい。高齢者の間で人気がでるのもうなずける。
 人だと気を遣うところも相手がロボットだと、なんだか気が楽という高齢者の声もあるという。介護職員にとってもロボットが仕事を分担してくれたら、負担軽減にもなるだろう。
 「今日の気分はいかがですか―」。一緒に体操した後、そうたずねてきてくれるのは人ではなくロボットだ。
 人間よりロボットのほうが心を通わせることができるのなら、いっそのことロボットに介護を委ねた方が安心と感じるようになってきてしまうかもしれない。【吉田純子】

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