取材に行き羅府新報の記者だと名乗ると様々な反応をもらう。「親が読んでいた」「まだあったの」「届くのが遅い」「長く購読している」「知らない」。よくあるこれらのリアクションに「おかげさまで116年続いております」と答えるが、その数字には驚かれることが多い。
 先日、40年購読しているという女性に会った。羅府新報の歴史のおよそ3分の1を共に歩んで来たこの読者。「配達が遅くて困る」という短い会話の中にも羅府新報を愛読する様子がうかがえた。作る側として襟を正すきっかけを与えられた思いだ。
 編集部ではほぼ毎日同じルーティーンで作業をする。コミュニティー欄以外は日本の多くの地方紙と同様に通信社からの配信記事を利用する。平均して毎日20から30、字数にすると1万5千字以上の記事を読む。その中から南加在住の読者向けの記事を選び、語句を編集する。そして割付。新聞の割付は細かい決まりが多く慣れるのに時間がかかった。読者だった頃には気づきもしなかった「新聞レイアウトの奥義」。極めるにはもうしばらくかかりそうだ。
 写真選びも重要。 記事内容を一番よく伝える写真はどれかを吟味して選ぶ。APやロイターなどの大手通信社の写真を自由に使えるなら問題はないが、羅府新報の台所事情がこれを許さない。写真が手に入らない時にはその記事の掲載を諦めることも。もどかしくもあるが字ばかりの紙面は作れない。
 記事と写真、写真説明が決まると最後は見出し。ひと目で内容をつかめるか、ここが勝負。主見出しは適当か。伝わりやすい語順はどれか。1文字多いだけでバランスが狂う。見出しの字数制限との格闘を終えるまで昼食はお預け。自分で決めた締め切りの時間が迫ってもまとまらなければ一旦休憩。不思議なもので、気持ちを入れ替えるとパッと良い見出しが浮かぶことがある。デザイナーによって紙面はコンピューター処理され、ゲラ刷りが上がってくる。校正して翌日の紙面作りは終了。
 「デジタル版より紙の方が読みやすい。羅府新報の購読はやめないからね」という読者の女性を思いながら今日も新聞を作る。【麻生美重】

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