今日は3月31日。本当なら私は今ごろ、カリブ海を航海するクルーズ船で夢のような時間を過ごしているはずだったのに…。
日本や欧州に住む音楽仲間との再会も楽しみにし、14カ月待ち続けたバケーションプランは、コロナのおかげで木っ端みじんになってしまった。
マイアミから出港の6日間。私の好きなプログレという種類の音楽バンドが30以上も集結し、朝から晩まで演奏を楽しむ船上の音楽フェスティバル。「へえ、そんなクルーズがあるんだ? 知らなかった」と言われるが実際、ロック、ジャズ、ブルース、クラシックと、いろいろなジャンルの音楽クルーズがある。日本にも加山雄三さんと行く「若大将クルーズ」というのがある。
ダイヤモンドプリンセス号の集団感染が起こった2月上旬から、7千人のメンバーがいるフェイスブックのグループ上では、「見通しは暗い」「いや、乗船時のチェックをしっかりすれば大丈夫」など、全米、欧州、中南米や日本からの参加予定者が活発に意見を交わし、誰もがコロナの動向を注視した。
イタリアに住む友人が「ミラノからの飛行機がキャンセルになった。もう行かれない!」と連絡してきた時、私はまだ彼女の周りに起こっている現実を半分も理解できていなかった。 欧州からすれば「アメリカ人は何て能天気なんだ」と思っていたことだろう。
イベントの延期が決まり、海底に沈んだような重い気持ちの私だったが、今や刻々と悪化する事態の前では、それも取るに足らないドラマになってしまった。船上どころか在宅勤務の自室に缶詰め状態の毎日だ。
新型肺炎の拡大の影響で仕事を失った人が大勢いる。不安や、恐怖。一方で目に見えない敵の脅威を軽視する楽観論者や、「経済を傷めないためには少しぐらいの犠牲は…」などと言う言語道断な者までいる。そんな中、ロサンゼルスのエリック・ガーセッティ市長が記者会見の中で発した言葉は胸に響いた。「今、何かを失ったとしても、無くしたものは必ず取り戻せる、命以外は、取り戻せる」
何気ない外出が知らぬ間に誰かの命を奪うかもしれないことを肝に銘じ、家に閉じこもることを実行しよう。【長井智子】