「この数カ月でアジア系住民に対するヘイト事件が増えている」と言うジュディー・チュウ議員
 カリフォルニア第39区(ロサンゼルス郡、オレンジ郡、サンバナディーノ郡)選出のギル・シスネロス議員がフェイスブックを通じたオンライン・タウンホールミーティングを27日、開催した。ジュディー・チュウ議員、アジアおよび太平洋諸島系の人権擁護団体の代表らが新型コロナウイルスの感染拡大に連れて増加するヘイト・クライムとヘイト・インシデントについて話し、人々の関心を呼び掛けた。

 カリフォルニア第27区選出でCAPAC(Congressional Asian Pacific American Caucus)の議長を務めるチュウ議員は「この数カ月でアジア系住民に対するヘイト事件が増え、言葉の暴力だけでなく実際に危害を加えられるような重大な事件が増えている。外出自粛が解かれた後が心配だ」と述べた。チュウ議員やシスネロス議員が所属するCAPACはマイノリティーを擁護する米国議会のメンバーで構成される党員集会である。
 混乱や特定の集団または国に汚名を着せることを避けるため、正式名称を決めるように求められた世界保健機関(WHO)が新型肺炎の名称を「COVID・19」と決定したのは2月11日のことだった。また、新型ウイルス自体の名前は国際ウイルス分類委員会(ICTV)が「SARS・CoV・2」と名付けた。
 だが、3月下旬、コロナウイルス感染拡大の非難の矛先をかわそうとしてかどうかは分からないが、トランプ大統領がコロナウイルスを「チャイニーズ・ウイルス」と呼んだことは、コミュニティーに大きなショックを与えた。CAPACや世論からの抗議に、トランプ氏はその後「感染拡大はアジア系米国人のせいではない」「これは人種差別の発言ではない」と応じ、事態をなだめようとしたが、一度発せられた言葉を取り返すことは難しい。チャイニーズ・ウイルス、またはウーハン(武漢)・ウイルスという表現は、目に見えないウイルスそのもののように人の心に感染し、人種差別を増長する刺激剤となってしまった。

シスネロス議員のフェイスブック・ライブ上で被害の経験を話したユカ・オジナさん
 パネルで、最近にヘイト・インシデントの被害を受けた2人のアジア人が体験談を話した。ブレアに住むユカ・オジナさんは、近所の量販店に両親の処方薬を買いに行ったところ、突然、店内の通路で罵声を浴びせかけられ、買い物をするどころではなくなり、恐ろしくなって店を逃げ出した。数日後に今度は他の店に行ったが、そこでも同じようなことが起こった。「これからはペッパースプレーを持ち歩かないと危ないと思うほど身の危険を感じた」と話すユカさんは、その日の恐怖がよみがえったのか、話しながら感情を取り乱し、泣き出してしまった。
 クリストファー・クアンさんはダウンタウンの勤務先まで地下鉄で通勤していた。軽い咳の症状があったので自主的にマスクをつけていたところ、見知らぬ女性から罵声を浴びせられた。「自分はわざわざマスクをつけているのになぜ?」というショックと、「自分は中国系ではないのになぜ?」という混乱の、二つの感情が湧き起こったという。今は、「外出の時には(人種が分からないように)マスクの上にサングラスをかけている」と話す。
 「A3PCON(Asian Pacific Policy and Planning Council/アジア太平洋政策計画協議会)」が3月に特設したヘイトの報告サイトには全米から約1500件の報告が寄せられた。うち、44%が商業施設やサービスの環境で発生し、3分の2が言葉の暴力、10%が人種偏見により差別を受ける権利の侵害、10%は身体的暴力だった。
 弁護士、裁判官、法学生などの500人の会員がいる「OCAABA(Orange County Asian American Bar Association)」のデニス・クロフォード会長は、オレンジ郡で暮らすアジア人は人口の21%に当たる320万人いると言い、言葉の壁を越えてお互いを助けあうことが必要、ハラスメントやバイオレンスを受けたら言葉にして報告を出すことが大事だと話す。「なぜなら、あなたは被害者なのだから。私たちが報告を受けたら、各国語で対応する専門家やカウンセラー、弁護士などを紹介するので、ぜひ相談してほしい」と呼び掛けた。
 米国に住むマイノリティーにとって、人種差別に根差したヘイト・クライムやヘイト・インシデントは潜在的な問題である。平常時は心の奥に眠っているヘイトの感情は、非常時には頭をもたげて社会の表面に現われてくるといわれるが、1982年に起きた有名なビンセント・チン事件も背景に日本車が台頭した当時のデトロイトに渦巻いていた日本人に対する嫌悪があり、日本人と間違われた中国系米国人がいさかいに端を発して殺されたという事件だった。事件そのものもさることながら、裁判で加害者の量刑が二転三転したことが米国社会に潜むアジア系米国人に対する人種偏見と結びつけられた。また、同時多発テロの後にイスラム系米国人が人種偏見にみまわれたことも記憶に新しい。
OCAABAのクロフォード会長はオレンジ郡の人口の21%がアジア人、被害は言葉にして報告を出すことが大事だと話す
 だが、この新型コロナウイルス感染拡大という非常事態では、アジア系米国人への人権侵害や差別、攻撃が助長されることは止めなけれならない。そのため、人権擁護団体と議員の各氏は勇気を持って報告を出すことの重要さを強調した。報告が人権擁護団体やCAPACのような議員団体に届けばヘイトをなくすための行動が起こされていくだろう。何もせず泣き寝入りをしたら、ヘイトの根を絶やすことは出来ないだろう。
 シスネロス議員は登壇した4人のパネリストと体験を話した2人の被害者に感謝の意を述べ、「人種差別、偏見、外国人恐怖症について、それがどこであろうと対処していくことが何より重要。もし被害を受けたり、被害を受けた人を助けている場合は、一人で悩まないで人権擁護の団体に連絡してほしい」と締めくくった。
 シスネロス議員、チュウ議員のほか、当日のパネリストは次の通り。
 スチュワート・クオ (Advancing Justice-LA創立者)、マンジュ・クルカーニ(A3PCONディレクター)、アリソン・エドワーズ(オレンジカウンティーヒューマンリレーションズ)、デニス・クロフォード(OCAABA会長)
 アジア系・太平洋諸島系のための人権諸団体と、事件の報告先は次の通り。
 Asian Americans Advancing Justice-LA
 advancingjustice-la.org/
 報告ページ
 www.standagainsthatred.org/report
 電話888・349・9695
 Asian Pacific Policy and Planning Council
 www.asianpacificpolicyandplanningcouncil.org/
 報告ページ
 www.standagainsthatred.org/report
 www.asianpacificpolicyandplanningcouncil.org/stop-aapi-hate/
 Orange County Human Relations:
 www.ochumanrelations.org/
 報告ページ
 www.ochumanrelations.org/hatecrime/report/
 中国語とスペイン語の電話相談(秘密保持)714・480・6580
 Orange County Asian American Bar Association
 https://ocaaba.org/
 contactus@ocaaba.org
 電話949・440・6700 内線25
 CAPAC(アジア太平洋系米国人を擁護する議員集会)
 https://capac-chu.house.gov/
 タウンミーティングの様子はシスネロス議員のフェースブックから視聴可能
 www.facebook.com/RepGilCisneros/videos/159234052177207/
【長井智子】

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