4月に入るなり、時がまるで雪解けの小川の流れのように速度を速めて勢いよく流れた。そしてバイリンガルの「息子・マンティ」が逝ってしまった。マンティは2匹いるハバニーズ犬の「兄」。がんで「クリスマスまで持つかな」とドクターに言われていた「弟・クリスト」をなめて看病していた。それが急に歩けなくなり、1カ月後にはこの世を去った。
 マンティが歩けなくなると、今度はクリストがマンティを看病した。が、末期(まつご)にはそっぽを向いて「兄」を見ようとしなかった。犬の習性らしい。
 最後の3週間、フロアに敷いたマットレスで「マンティ」に添い寝して夜通し看護してきた妻は泣き崩れた。
 マンティと過ごした10年間の思い出が走馬灯のように駆け巡る。マンティはその思い出を私には相談なしにバックパックに全部詰め込んで、スピリチャル・ワールド(霊界)に旅立ってしまった。けしからん親不孝ものだ。
 ついこの間まで毎朝、一緒に散歩した。ペット・ショップに近づくと、リーシュを引っ張って店内に駆け込んだ。店員の人がグディーをくれるのを知っているからだ。
 「弟」とかけっこをすると、いつもゴールドメダルを取るのはマンティだった。人間の目を長いことじっと見つめるマンティを友人は「このワンちゃんは人間の目をしている」と評した。
 犬は他の動物よりも忠誠心が強いと言われている。人間に愛されていることを実感していて、それを目やしぐさで表現する。マンティをなでると、その温もりが指先にじんわりと伝わってくる。それが疲れを和らげ、癒やしてくれた。
 死んだ日の翌日、庭の白いバラを食卓に置いたマンティの写真の横に飾った。気付くとバラの葉に小さな蜘蛛(くも)が1匹はっていた。彼の生まれ変わりのようにも思えた。
 数日後、ドクターとスタッフからお悔やみのカードが届いた。「マンティはこんなに愛され、素晴らしい一生だったよ、と感謝しているはずです」
 がんと必死に戦っている「弟」はあれ以後、あまりほえなくなった。家は灯が消えたようだ。「たかが犬が死んだだけじゃないか、しっかりしろよ」という声が聞こえてくるのだが…。(高濱 賛)

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