オレンジ郡の南端にあるサンクレメンテ市はサーフィンの盛んな海沿いの街。2008年に私が日本から米国に戻ってきた時に最初に腰を落ち着けた場所だ。そこで息子は中学・高校を終えた。日本でいえば湘南の江ノ島?を思わせるちょっとひなびた雰囲気があり、10年以上住んだが、人も景色もおだやかで、嫌なことは一つもなかった。機会があったらまた住みたいと思う。
 そんなサンクレメンテの名前が先週、ロサンゼルスタイムズの紙面に踊っていた。4人のうちの1人の市議が「サンクレメンテを妊娠中絶禁止のサンクチュアリ(聖域)にしよう!」と叫び、市民が注目しているという内容だった。ちなみにこの街には妊娠中絶を行う病院やクリニックなどは一つもない。背景を書けば、同市を含むオレンジ郡は共和党色が強い。だから中絶反対論者が多いことも不思議ではないが、そんな市民も「さすがにそれはやりすぎでしょ」ということで(?)、熱を帯びた意見陳述の後6日に、4人の市議が投票し3対1で否決されたという。
 私は女性なので、どうしても妊娠中絶是非の動向は興味深く見てしまう。実は自分の意見もあって、安易に妊娠したり妊娠を中断せざるを得ない状況を作らないことこそが大切だと思う。産む選択しか与えられないのなら、妊娠の片棒を担ぐ男性の責任や生まれた子どもへの支援などにも言及してほしいと思う。それがないなら、妊娠中絶を許さないというのは少し行き過ぎだと感じている。
 ニューサム知事がツイッターで「カリフォルニアの中絶擁護」を高らかに唱えると、「それよりもっと大事な物価問題なんかをやってくれ」と皮肉交じりにコメントする人がいる。「それはそうかもしれないが…」と思う。
 私は米国での選挙権を持たないが、もし投票をするとしたら共和か民主かという二者択一ではなく、それぞれの分野で自分の考えに合っていることに投票したい。何が何でも自分の党派(それも2種類しかない)だけが「正当」だとがんばる米国の政治を見ると、「運動会の赤組白組でもあるまいし」と思ったりする。
 それで、「政治家が出す動議が住民の意見を代表するものでなく個人の信心や信条を押し付けるものであったら怖いよね」などということを日曜日、友人に熱く語ったら、「週末の楽しいブランチにそんな政治の話持ち出さないで」と怒られた。ギャフン。政治に無関心でいられることこそ真の平和と思う、ノンポリ無党派の私である。(長井智子)

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