西海岸最大発行部数を誇る大手紙ロサンゼルス・タイムズ(5月7日付)が、新1世の山田健三さん(76=京都市出身、通称ヤマさん)が立ち上げた魚屋を取り上げた。
 「細かさへのこだわりが20年、常連客をヤマ・シーフードに引き付ける」(Attention to detail, honed over 20 years, draws fans to Yama Seafood)
 米国内のすしブームは異常だ。全米には8千軒のすしバーがある。加州発祥のカリフォルニアロールはどこのスーパーでも売っている。
 数ある魚屋の中でタイムズ記者がヤマ・シーフードに目を付けたのは、ショーウィンドーに並んでいる魚を客の注文に応じて見事な包丁さばきで一切れずつ刺し身にしている点だった。
 客は、30分、1時間待っても、自分の好みの魚を刺し身にしてもらい、家で、すしバーで食べるように、しかも安い値段で食べたいのだ。ついでにカリフォルニアロールも買い求める。
 包丁を磨く。お米を研ぐ。アボカド、イミテーションクラブ、マヨネーズ、トビコをどんな割合で詰めると、一番旨味(うまみ)が出るか。その「段取り」に細心の注意を払ってきたという。
 「イミテーションクラブはどれも同じ。でも他の食材との兼ね合いでその旨味が変わりますのや」
 「1本のロールを家族4人で分けて食べるお客さんもいやはる。だから端っこも真ん中も均等に詰める。それが礼儀でしゃろ」
 タイムズ記者の言う「Detail(細かさ)へのこだわり」とは、そういうことだった。
 ヤマさんは1980年渡米、4年後にサンゲーブルに小さな店を開いた。綱渡りのような日々が続いた。20年たって、客足は右肩上がりで増え、安定した。2年前、引退を考えていた時、4世の起業家スコット・コウノ氏に暖簾(のれん)ごと買い取ってもらった。2代目は、オンラインをフル回転し、経営の合理化を図り、早くも二番店を開いている。
 「(新聞に書いてもらって)これまでの苦労が報われた。でもわたしなんか、ただの魚屋のおっつぁん。(新1世で)もっと頑張った人はぎょうさん(たくさん)います」
 目立つのを嫌うヤマさんは、どこまでも徳富蘆花の「不如帰」に出てくる「おますさかいの京男(きょうおとこ)」だ。(高濱 賛)

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