昨年最後に読んだのは「新1世」と呼ばれる戦後の日本人女性移民に関する新たな研究書、トリシア・トヨタの「Intimate Strangers: Shin Issei Women and Contemporary Japanese American Community, 1980-2020」だった。トヨタは1980年代から90年代にかけてロサンゼルス近郊に移住した女性たちに焦点を当て、移住の社会的背景や動機、経路、その後の人生、日系人コミュニティーとの関わりやアイデンティティーを、インタビューや統計を使って多角的に浮き彫りにする。1世と呼ばれる戦前の日系移民の歴史についてはよく知られているが、こうした戦後の移民の研究はまだ数が限られており、「日系」の枠を広げる画期的な1冊である。
 トヨタによれば、より良い経済的および自己実現機会を求めて、男女間に大きな社会的格差のある日本を飛び出し米国に渡った女性たちは、そこで言語やジェンダーだけではなく、人種や移民ステータスによる周縁化に直面してきた。日本では女性であることで差別は経験していても、人種としてはマジョリティーの側にいた日本人女性たちは、初めて米国で人種差別を経験することになったのである。
 差別や疎外は広い米社会だけではなく「日系」コミュニティーの中でも起きる。同書はまた日系米国人コミュニティーと日本人コミュニティー間の断絶と摩擦についても、ソーテル日本町の公式命名運動や敬老売却問題といった具体的な事例も織り交ぜながら、現状と歴史的背景を考察する。
 強制収容に代表される社会的不公正や人種差別との何世代もの闘いによって形作られた日系米国人コミュニティーにとって、新1世はその日系のアイデンティティーと物語を「かき乱す」者と映ったと書く一方で、違いや緊張関係があってもつながりは築いていけるとトヨタは考える。「21世紀において日系とは誰かと定義するときには、これまでもそうであったように、妥協、順応、共感、必要性が要求される」。
 これまでの強制収容を中心とする日系史の研究の中では異色であるが、これからは包括的な「日系」の研究や定義がいっそう必要とされている。(三木昌子)

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