米国に来なければ、お目にかかることがなかった鳥がいる。ハミングバードだ。鳥類では最も小さい。毎秒50回から80回は飛翔し、空中で静止ホバリングする。脚は退化しており、枝に止まることはできるが、歩けない。
その鳥が毎朝、毎夕、中庭の「一歳藤」の花の蜜を求めてやってくる。ホバリングしながら紫の小さな、五弁の花の中にくちばしを突っ込み、蜜を吸う。朝夕、10羽はやってくる。首が鮮やかな赤や青の雄鳥と地味な茶色の雌鳥がカップルで羽音をたてて飛んでくる。
アメリカ大陸にしか生息しないこの鳥は、紀元前500年にできたとされるペルーのナスカ地上絵にも描かれている。
マヤ族には、「ハミングバードに変装した太陽(男性)が月(女性)に求愛している」という伝説がある。いかなる人生も希望と愛と喜びに満ちあふれていることを教えてくれる鳥だともいう。
朝夕、「藤の木の傘」の下に置いたソファに座って、待ち構えていると、ハミングバードが飛んでくる。時には私の目の前に垂れ下がっている花の蜜をおいしそうに吸いにくる。長居はしない。
かつては私も海外特派員として彼らのように世界中をロービングし、ホバリングした。そして今、彼らを愛でながら、過ぎ去った時間と現在、明日(あした)への想いが交錯する至福の瞬間を味わっている。
「五十にして天命を知る。六十にして耳順(みみしたが)う。七十にして心の欲する所に従って、矩(のり)を踰(こえ)ず」
孔子さまは、八十歳の境地については諭されなかったが、ハミングバードはその傘寿をすでに終えた、このエトランゼがアメリカ大陸から頂戴した宝貴な贈り物である。(高濱 賛)
