地鳩啼く 大根の花よ 朝曇り
正岡子規の句をもじって、わが家の朝曇りの景色を詠んでみた。軒先に地鳩が巣を作った。母親が卵を温めている。父親は近くの木の枝に止まって、外敵が来たら命懸けで追い払う態勢を整えている。「ホーホー ホーホー」と尺八のような音で啼く。朝、その鳴き声で起こされる。こんなぜいたくな目覚まし時計はない。
「幸福」とは手に入れるものではなく、感じるもの。数週間前にまいた大根の種が成長し、今は白紫の花をつけている。大根がこんなに愛らしい花を咲かせるとは思ってもみなかった。石川さゆりの「だいこんの花」という歌がある。
「けなげに咲いている だいこんの花も 明日は明日の 陽が上る 人生って 人生って 捨てたものでもないですね」
大根の花の花言葉は、「潔白」「適応力」。人間にも大谷翔平選手のように大輪の花を咲かす人もいれば、ひそやかに大根の花を咲かす人もいる。私の親友のT君は、そんな人だ。彼からEメールが届いた。
「若手の和楽器奏者を集めて、和太鼓コンサートを歌舞伎座の5階にあるホールで7月に開きます。日本にもたくさんの外国人が来られています。日本古来の和楽器の演奏を聞き、歌舞伎で使う本物の衣装や小道具を見ていただき、東京芸大を出ても和楽器だけではなかなか食べていけない若手奏者に仕事を回す、というのが目的です」
T君は、これまで出版業を経営する傍ら、盲目の天才ピアニスト辻井伸行さんの母親や、がんを征服した水泳の池江璃花子さんの母親の講演のマネジメント、卒業後に就職もままならぬ音楽大学の学生たちによるオンライン・コンサートを手がけてきた。今度は外国人観光客向けの「和楽器シアター」を立ち上げたのだ。
「The Shogun 将軍」のような世界をうならせたテレビドラマの役者たちではなく、歌舞伎を支える裏方の奏者に光を当てた。大根の花を見ながら、古典芸術に取り組むけなげな若者たちと彼らを支援するT君の生きざまに思いを寄せる。(高濱 賛)
