
日本食の海外普及に貢献した功績をたたえる農林水産省の「日本食海外普及功労者表彰」を、ロサンゼルス在住のアンディ松田さん(スシ・シェフ・インスティテュート校長)と清水照雄さん(ミヤコオリエンタルフーズ副社長)が受賞し、授与式が行われた。両氏は「日本食普及の親善大使」としての活動などを通じ、米国における和食文化の発展に寄与してきた。 (長井智子、写真も)
同表彰は、海外における日本食・食文化の普及に顕著な功績のあった個人や団体を対象に実施。ロサンゼルスで活動する両氏は、世界各地の受賞者の一員に選ばれ、その取り組みが評価された。

授与式は3月、松田さんが経営するトーレンスのすし職人養成学校「スシ・シェフ・インスティテュート」で行われ、在ロサンゼルス日本総領事館の室田幸靖総領事が表彰状を手渡した。関係者や家族らが出席し、長年の功績をたたえた。
松田さんは、同校の創設者として、これまでに世界各国から集まった多くの人材を育成。日本食レストランの増加に伴い、現地での調理人材の不足が課題となる中、非日本人を含む受講生に対し、すし技術や衛生管理、日本食文化の背景までを体系的に指導してきた。これまで2300人以上を育成し100人以上が開業。卒業生は米国内外で活躍しており、日本食の質の向上と人材基盤の拡充に大きく貢献している。
業界団体の「日本食レストラン海外普及推進機構」も、松田さんが書籍などの編さんを通じて米国の衛生基準に沿ったすし技術の普及と教育に尽力した功績をたたえている。
一方、清水さんは、日系食品製造会社ミヤコオリエンタルフーズの副社長として、日本食材の流通と供給体制の整備に尽力。1977年の入社後、米本土初のみそ現地生産を製造部長として担当した後、オーガニック大豆を使ったみそ、「ゆずこしょう」や「こうじ」、ポン酢などの生産に携わった。南カリフォルニアを中心に非日系レストランや小売店への安定供給を支え、日本食文化の裾野拡大に寄与してきた。業界内外でのネットワークづくりや情報発信にも積極的に関わっている。
世界的に日本食レストランが増加する中、2人は人材育成と食文化の本質的な調味料の伝承という異なる側面から、日本食の未来を切り開いてきた。両氏は「多くの人々の支えがあってこその受賞」と感謝を述べるとともに、今後も日本食の魅力を広く伝えていく決意を新たにした。
2006年に始まった同表彰は今回で19回を数え、世界では湾岸地域で日本茶文化の普及と文化交流に貢献するバーレーン在住のブドア・スティールさん、そして、スペイン・バルセロナで日本食店を経営するシェフの松久秀樹さんが受賞した。
ロサンゼルス地域の過去の受賞者には、豊島年昭さん(すし店「鮨元」、19年)、白形雅則さん(Den's Tea、18年)、松秀二郎さん(MKK IMPORT、14年)、石井龍二さん(AFC、10年)、雲田康夫さん(Frec Food、08年)、金井紀年さん(ミューチュアル・トレーディング、07年)、松久信幸さん(レストラン「Matsuhisa」、07年)がいる。
人材育成から循環を構築
アンディ松田さん

アンディ松田さんは、海外における日本食の発展を見据え、人材育成に力を注いできた。世界には約20万軒の日本食レストランがある一方、その大半は日本人以外によって運営されており、現地での教育と人材供給の重要性を早くから認識。現地の人材を育てることで業界全体の底上げを図ってきた。
英語も話せない状態で渡米し、日本食レストランでの経験を重ねる中で直面したのは深刻なすし職人不足だった。そこで「人を育てる」ことに活路を見出し、教育を軸とした事業を展開。さらにみそや酒、海苔などの日本企業とのネットワークを広げ、食材供給と人材育成を結びつける独自の循環を築いてきた。
近年はその取り組みをさらに発展させ、日本での研修ツアーにも力を入れている。卒業したすし職人たちを日本各地に送り、本来の食文化に触れさせると同時に、地方に眠る食材や技術を発掘し、米国へとつなぐ仕組みづくりを進めている。これまでに高知、関西、九州、北陸、東北などを巡り、各地の生産者や食文化との新たなネットワークを築いてきた。
こうした活動は、海外側だけでなく日本の地域にも波及効果をもたらし、地方の魅力を再発見し、若い世代の関心を呼び戻す契機となる他、インバウンドや輸出の可能性を広げることにもつながるといい、循環の契機となっている。
松田さんの活動の根底にあるのは「自分だけが利益を得るのではなく、人とのつながりを広げ、コミュニティー全体に機会を生み出す」という考え方だ。ネットワークを通じて新たな挑戦の機会を提供し続けてきたことが、現在の広がりにつながっている。
今後も取り組みを継続していく意向を示し、「小さな学校ではあるが、引き続き支えてほしい」と呼びかけた。
みそ普及50年、なお広がる可能性
清水照雄さん

ミヤコオリエンタルフーズ副社長で、日本食普及の親善大使を務める清水照雄さんは、同社がみそを中心に、ポン酢やテリヤキソース、ゆず調味料など幅広い日本の調味料を手がけていることを説明した。中でもみそは主力商品で、同社は1976年に小東京で製造を開始し、現在はボールドウィンパークに拠点を移して事業を行っている。
約50年にわたる米国でのみそ普及について清水さんは、「まだまだこれから」と展望を語る。日本ではみそが日常的な存在ゆえに注目されにくい一方、米国では大豆食品としての健康価値や、日本食ブームの高まりを背景に関心が広がっているという。今後は欧州などへの展開にも期待を示した。
かつて「ソイペースト」と呼ばれていたみそが、現在では「MISO」として通じるようになった。一言で言えば、この変化こそが清水さんの功績である。 清水さんは自身のルーツについて、サクラメントで米作りに携わった祖父と、米国育ちで日本に戻った2世の父の影響を挙げる。山口県岩国の米軍基地に出入りしながら育った経験から、日米両方の文化に触れてきたことが現在の事業観につながっていると話し、両国の価値観を生かしたビジネスの可能性を強調した。

