10月のパリは、テロ警戒とストライキの中にあった。
 無差別テロの恐れありと警告が発された中、フランクフルト系由でパリに到着したが、シャルル・ドゴール空港では入国審査も税関審査もなく、かえって気抜けした。最初にEUに入る時点でチェックはすべて済んでおり、これ以上は不要ということらしかった。逆に、郊外にあるフランス国防省傘下の研究所を訪ねると、事前手続きを踏んでの訪問にもかかわらず制約は多く、「EU圏の人にはこれほど厳しくないのですが」と案内に立った研究者が気の毒がる。普段実感することの少ないヨーロッパ・ユニオンの存在と一体化を強く感じさせられた。
 エッフェル塔などの人気観光地には、焼き栗やみやげ物の売り子に混じり、機関銃を手にしてテロ警戒に立つ迷彩服の兵士の姿があった。一方、市内のところどころでは、年金受給開始年齢引き上げに対する抗議行動が行われ、警察官が出動していた。
 ミッテラン政権時に65歳から60歳へと引き下げられた受給年齢は、財政状況の変化を受けてサルコジ政権により62歳へ引き上げられようとしていた。精油所で大規模ストライキが行われてガソリンの供給が滞っていることを新聞は報じ、パリの友人は、鉄道の運行本数が少なくなって通勤の足が混乱していることをこぼした。結局、法案は私たちの滞在中に両院を通過。フランスもまた、アメリカ同様に62歳が年金受給の開始となるらしかった。「シラクは良かったけれど、サルコジは良くない」と切り捨てたのは、ホテルの従業員。権利が削減されるのは面白くないに違いないが、経済状況の良し悪しは大統領のせいばかりではなかろうと思われた。
 旅の最後、空港で背後に日本語を聞いて振り返ると、何と「頼まれて、40年ぶりのパリで、マジック・コンベンションでの通訳をしました」というロサンゼルスからのご夫婦だった。ひとしきりパリやアメリカの話をして別れたが、それにしても多くのことを見聞きした旅となったことだった。【楠瀬明子】

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