昨秋の顕文化功労者彰式の際に、記念撮影前の待ち時間が長くて手持ち無沙汰になったものか、受賞者の一人、漫画家の水木しげるさんが脚を組もうとしたのを妻の布枝さんが制するところをテレビニュースで見た。見て、ああ、この漫画家は、因習に囚われない、生来の自由人なのだ、と思った。思って、2011年を迎えてこんな提案をする気になった。
 日本人よ、椅子に座るときは、鯱(しゃちほこ)張るのをやめて、脚を組んでもいいことにしようではないか。
 日本人は、とにかく、人前で脚を組まない。テレビのおふざけバライティーショーの中でさえそうだ。組まない、つまりは、リラックスしていないから、出演者たちの発言が本物に聞こえない。そう言ってほしいとテレビ局が期待していることしかしゃべっていないように見える。お堅い対談番組の中でならますますそうだ。自由な発想でものを言う人はめったにいない。
 いやいや、最悪なのは国会での委員会審議場だろう。政府側にも政府側にも、脚を組んでいる者はまずいない。出席者全員が身を硬くして、愛嬌のない顔を並べているだけだ。党利党略を第一にして、政策に関する意見をまじめに戦わせようとはせず、国民の暮らしをないがしろにしているのだから、そうなるのも当然だ。
 だから、議員たちよ、国会の悪い慣習を捨てて、遠慮なく脚を組みなさい。肩の力を抜きなさい。硬い鎧兜の後ろに逃げ隠れするのをやめて、素直な、自分自身の頭で国民の暮らしのことを考えなさい。閣議ででもそうだ。脚を組んで話し合えばいい。その方が柔軟で建設的な政策が生まれるはずだ。
 そういえば、過去の日米首脳会談でアメリカの大統領が脚を組んで首相に友好の姿勢を見せているのに、首相がそれに応えていない映像をこれまでに何度見せられたことか。
 首相も脚を組むといい。心にゆとりがあるところを大統領に見せたらいい。脚を組みながら目と目をちゃんと合わせてどこの国の首脳とでも話し合えるように首相がなれば、国民もそれに倣うだろう。だれもが型にはまらず、自由に物を考えることができる、風通しのいい国に、日本全体がなっていくかもしれない。【江口 敦】

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