原発事故を受け、東電幹部や政府は、地震と津波の規模を「想定外」の一言で片づけ、危機管理能力の欠如が問われている。その対応から、事故は起こるべくして起きたという印象をぬぐいきれない。
 一方、年間約2500万人の来園者を誇る東京ディズニーリゾート(TDR)にとって、今回の地震は「想定内」だった。
 3月11日、震度5強の強い揺れが、TDRのゲスト(来園者)7万人を襲った。しかしその直後、すぐに防災頭巾代わりにぬいぐるみを配り、気温10度の寒さからゲストを守るため、土産袋も無制限に渡し、上着代わりにかぶるよう促す従業員の姿があった。
 これらすべてマニュアルにはないとっさのアイデア。最前線で来園者を守った彼らは、TDR全従業員の9割を占めるアルバイトスタッフであった。自身も被災者であるにもかかわらず終始笑顔で最善以上を尽くしたその勇姿に、来園者は心打たれたという。
 さらに園内の土産店で売られている菓子類もすべて無料で提供。夕食には温かいひじき大豆ご飯をゲスト全員にふるまった。TDRでは5万人が3、4日間過ごせるだけの非常食も準備されていた。
 TDRでは、年間180回ほど避難訓練を実施。2日に1度、園内のどこかで行われている計算になる。震度6度強の地震が発生し、10万人の来園者がいることを想定した緊急事態対策がすでにとられていた。
 非常事態でこそ現れる人間の本質。TDRは非常に優秀な従業員が集まった組織と言えるだろう。緊急時に発揮される機転と迅速な対応、来園者の安全を第一とするホスピタリティー精神を、政府は見習わなければならないように思う。
 被災地ではいまだ物資が行き渡らない避難所が数多く点在し、世界中から集まった義援金の配分も難航。東電は対応の遅れや判断ミス、コミュニケーションの不足が指摘された。そして人災はそのような環境から起こってしまった。今日本は危機管理能力と、組織力を見直す必要性に迫られているのではないだろうか。【吉田純子】

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