齢を重ねてくると、生きているうちはピンピンと動き回り、その時が来たらコロッと逝きたい、と思う。
第一生命が40歳から79歳までの男女792人を対象に行ったアンケート調査によると、「どんな最後が理想か」との質問に64%の人が「ある日、突然死ぬ」と答えている。
しかし考えてみると、〈死ぬまで元気でいたい〉というのは贅沢な話だ。
当然のことながら、これにはかっての侍の切腹(つまり自殺)とか、交通事故は入っていない。となると、現実的には、心筋梗塞や突発性不整脈で死ぬ以外にない。
この「ピンコロ願望」、意図するところは、老いて長患いをせず、周囲に迷惑をかけずにコロッと死にたい、ということなのだが、そうは問屋が卸さない。
〈周囲の迷惑になりたくない〉という願いには、〈最後までプライドを持って生きたい〉〈悲惨な状況にはならずに周囲に愛されて死にたい〉という人間としての尊厳のようなものが込められている。
99歳の今も患者を診ておられる日野原重明・聖路加国際病院理事長は、「死亡診断書は5000件以上書いたが、急死したという例はまれだ」と述べている。
長野県佐久市の成田山薬師寺に「ピンコロ地蔵」という地蔵さまがいらっしゃる。(毎日新聞11年2月1日付)
コロッと死ねる「ご利益」を追い求めて年間5万人の参拝客がやってくる。寺に向かう参道には、ピンコロ団子、ピンコロTシャツなどが売られ、「ピンコロ地蔵参りツアー」まであるという。
「ポックリ願望」をかなえて下さる「ポックリ寺」というお寺もある。その数、全国に50近く。中には、平安時代から続いている由緒ある寺もある。コロリと逝くという願望、昔も今も変わりはない。
「生と死」。いくら科学万能の社会とはいえ、こればかりは人間にはコントロール出来ない。
だとすれば、われわれは、死ぬまで周囲とは波風立てずに、したたかに、にこやかに天寿を全うする以外に手立てはなさそうだ。【高濱 賛】