「ペンは剣より強し」とは、19世紀の英国人作家リットンの戯曲「リシュリー」の中のセリフだとか。
 締め切りを気にしながらせっせと原稿用紙に向かっていた80年代。書き上げた原稿を植字担当者に手渡し、出来上がった紙面に反響を得た時には、ペンの力を実感したものだ。
 そのうちに日本語原稿作成はワープロ利用となり、90年代にはコンピュータ入力へと変わっていった。原稿の遠方への送付も、ファクスが出来て便利だと感心したのはほんの数年間のことで、すぐに、電子メールに添付しての送信に移行。この「磁針」原稿の執筆・送付も同様で、過去30年間の変化の著しさには驚くほかない。
 このように精いっぱい世の中の変動に付き合って暮らす毎日だが、今回、新しいことに挑戦することになった。一時間弱のスピーチを頼まれ、「出来ればパワーポイント(PPT)のプレゼンテーションで」との注文がついたのだ。
 昔、大きな模造紙に地図や年表を書き、それを使って説明した経験はある。その後、世の中はスライドに移行。近頃は説明会などに出席するとコンピュータのクリック毎に変わるスクリーンを見つめていたものだが、今度はそれを自分で準備することになった。
 幸いプログラムは持っていたので、コンピュータ画面を開き、知人にスライドの増やし方を尋ねることから作業を開始した。文字・写真の入力方法、文字や画面の色の変更、背景画の取り入れ方等々を教わって、ようやく40枚のスライド入りのPPTが完成。家族の前で予行練習をした。
 ところが、見終わった9歳の孫が「僕のPPTも見てね」とコンピュータを開いた。小学校で学習中とかで、スライドどころではなく、アニメーション機能も駆使して画面の中は動き、セリフの吹き出しまで飛び出すのには驚くばかり。幼いときからコンピュータに親しんで苦もなく使いこなす、全く新しい世代なのだ。
 彼らには将来、注釈つきでなければ「ペンは剣より」の意味は伝わらなくなるのだろうか。それともまた別の表現が生まれてくるのだろうか。【楠瀬明子】

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