世界屈指の投資銀行、ゴールドマン・サックス。その経営者として、AT&TやLucentの金融資金、不動産の売買、資金の貸付など手がけてきたピーター・キーマン氏が「Becoming China’s Bitch」(中国の娼婦になるということ)というタイトルの本を書いている。住んだことはないが、東京をベースに中国には何度も旅行しているキーマン氏は、ビジネスの最前線で中国をじっくりと観察してきた。そして得た教訓は、「中国を敵に回すな。協力関係を保ち続けよ」。なぜなら、中国もまたパートナーとしてのアメリカを必要としている。EUでも日本でもない、アメリカが必要だからだ。
 「中国にとって、アメリカは貸したカネを必ず返してくれる信頼出来る債務者。たくさんモノを買ってくれる顧客。中国が〈安かろう、悪かろう製品〉から〈洗練された製品〉を作れるようになるためには、どうしてもアメリカの『発明の才』(Ingenuity)が不可欠だ」で、アメリカにとっての中国とは
 「アメリカが未来永劫、世界市場で確固たる地位を保っていくためには巨大な市場と労働力を持つ中国がどうしても必要なのだ」。なのに、米歴代政権は、ことあるごとに中国の人権抑圧問題や汚職体質を批判してきた。「そのことがそれほど価値のあることだろうか」とキーマン氏。
 「実際に中国と商売をしている米企業はそんなことはお構いなしだ。見てみないふりをしている。企業は食うか食われるかの戦いをやっているんだ」。国務省のお役人には口が裂けても言えない「商売人の哲学」だ。そこでタイトルの「Becoming China’s Bitch」の意味するところは―
 「アメリカは中国に抱きつけ。かといって特別な関係になる必要などない。おもねる必要もない。ましてや『娼婦』になる必要などさらさらない。つかず、離れず。淫らにもならず。高慢にもならず。自信とプライドを持った淑女(Lady)として振舞えばいい」。 そして
 「用心深く、警戒しながら、獅子の優雅さをもって(中国と)踊ろう」(So let us dance warily, thoughtfully, and with Leonine grace)
 良し悪しはともかく、もう一つの「アメリカ」の声が聞こえてくる。【高濱 賛】

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