今月初め、日本の大学の野球部員が海外研修でロサンゼルスを訪れ、スポーツのみならず、米国の文化や歴史に触れる貴重な経験を積んだ。関係者と話をする中で、この研修の実現の裏には、学生一人ひとりの将来を真剣に思う、大学教授や野球指導者たちの尽力があることが分かった。
 部員の多くは甲子園を経験し、若いながらに厳しい競争社会を生き抜いてきた。子供のころから「野球ばかになれ」と指導を受け、友だちと遊ぶ時間も、テレビを見る時間も惜しんで、毎日野球に打ち込んできた選手。海外はおろか、野球の外に出たのは初めてという部員ばかり。
 しかし、そんな彼らですら、将来プロやアマチュアとして野球の道に進めるのはごくわずか。野球の世界しか知らないために、その道が断たれてしまった選手の中には一般社会に適応するのに苦労する人も珍しくない。
 同大学は、野球以外の道でも学生たちが勢いよく社会に飛び立てるよう改革を始めた。大学の教授とスポーツ指導者が「文武一体」という理念の下に連帯し、選手に野球と同じように教育の大切さを指導しているという。
 「学業との両立は無理」という否定的な声が聞かれる中、同大学は09年秋に東都リーグ1部優勝。明治神宮大会(全国大会)も制し、大学野球日本一に輝いた。
 卒業後に野球の道に進まなかった選手は、グラウンドと教室の両方で学んだことを生かし、教員や警察官をはじめ、銀行員など一般企業に一社会人として就職できるようになった。
 取材前に大学側から送られてきた参加部員のリスト。それぞれの名前の下には、「小さいながらも真面目で勉強もでき、しっかりもの」「潜在的要素を持つ、今回の研修で化学反応を起こしてほしい1人」「しっかりもののマネジャー。素直で信頼、信用あり」「野球に厳しく妥協を許さない性格。研修で新しい引き出しを身に付けてほしい1人」と、野球部長の温かい言葉が添えてあった。
 ここ最近、いじめ問題や教員による不祥事、モンスターペアレンツなど、教育を取り巻く環境でいいニュースを耳にすることが少なかっただけに、生徒の将来や可能性を思う教師や指導者の愛情に胸が熱くなった。【中村良子】

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