4日に就任したJACCCのイトウ新館長(写真=マリオ・G・レエス)

 前館長の突然の辞任を受け、昨年8月から空席となっていた小東京にある日米文化会館(JACCC)の新館長に4日、日系4世のレスリー・イトウ氏が就任した同氏はこのほど羅府新報の取材に応じ、JACCCの今後の展望、方向性、そして山積したさまざまな問題に対する打開策などを語った。
【取材=中村良子】

 パサデナ市で生まれ育ち、家族で二世週祭や日系イベントに足を運ぶなど日系社会と深いかかわりを持つイトウ新館長。アート、文化、非営利団体の運営に精通し、身長144センチと小柄ながら、ビジュアル・コミュニケーションズの最高責任者をはじめ、カリフォルニア・コミュニティー基金(CCF)など数多くの団体でそのリーダーシップ力を発揮してきた。
 JACCCの現状説明が行われた昨年11月の年次会合に、当時一市民として参加していたイトウ館長は、「これだけ多くの人がJACCCを思っていることが分かり、集まった人たちの厳しい意見に逆に励まされた。今は、同会館の将来性や可能性、アートや文化を通じたイベントのことを考えると胸が高鳴る」といい、一連の騒動で失った信頼を取り戻すため、「日系社会と寄り添いながら全力を尽くす」と意欲を述べた。
 
信頼回復と人脈作りに力
 
 今後は、コミュニティーの信頼回復と、同会館のミッションステートメントである「日本や日系、アジア系アーティストを支援し、伝統芸能や現代美術を紹介する」という原点に戻ることが最優先課題という。同会館が抱える深刻な財政問題については、「まずは財政状況をしっかりと把握する必要がある」と前置きした上で、政府や財団などからの助成金、企業や個人からの寄付金、リースなどによる収入の見直しと、新たな協力者を求めるための人脈作りに力を入れるとした。
 CCFでは、約35のアート系非営利団体とかかわってきた。それぞれが抱える問題や、運営状況などを客観的に学ぶことができたといい、その中で、「財政問題はもちろん、理事や従業員教育などの重要性を学んだ」。これらをJACCCの再建に役立てたいとした。
 
開放的な環境目指す
 
 今後、「厳しい結論を下さなければならないことも多くなるが、同時にコミュニティーがどのようなプログラムやイベントを希望しているかなど、彼らの声にも耳を傾けたい」とし、自らコミュニティーとの時間を設け、開放的な環境を目指していく。さらに、多くの非営利団体が厳しい運営を強いられている現在、リトル東京サービスセンターや全米日系人博物館などといった団体と横のつながりを強化し、協力し合える環境作りにも力を入れていく。
 将来的には、アートを通じた異文化交流や、三世代が揃って楽しめるイベントなども企画していきたいとした。また、大規模なイベントばかりではなく、関係者や寄贈者個々に感謝できるよう、さらに親睦を深めることを目的とした小規模なイベントも行っていきたいとした。
 イトウ新館長の就任にともない、同日に退任したビル・ワタナベ暫定CEOは、会館のリース率も徐々に増えているとし、少しずつではあるが前進していると現状報告。昨年11月の年次会合で触れた会館の一部売却の可能性については、今後オファーがきた時のために、理事会内に不動産部を設立し、資産価値を把握する予定とした。
 ワタナベ氏はまた、より多くの人に日米劇場の存在を知ってもらうため、昨年12月にアラタニ家に連絡を取り、正式名称は「ジョージ・サカエ・アラタニ日米劇場」と変更はないが、呼称を「アラタニ劇場」で統一することを決定したことも述べた。
 
館長はオーケストラの指揮者
 
 「救世主」との期待を浴びるイトウ新館長に対しワタナベ氏は、「誰も一日でミラクルが起こるとは思っていないので、焦らず、ペースを保って」とアドバイス。イトウ新館長は、「自分のポジションはオーケストラの指揮者のようなもの」と表現し、各部署からの「音色」をまとめ、最終的に1つのまとまった「ハーモニー」にすることが自身の役割だと話した。
 「これから先、さまざまな難関が待ちかまえていると思うが、コミュニティーの熱い思いに応えられるよう、努力したい。小東京に戻ってこられたことが嬉しい」と意欲を述べた。
 JACCCは7日(木)午後6時から7時半まで、イトウ新館長の歓迎会を同館地下にあるガーデンルーム(244 S. San Pedro St.)で催す。参加希望者はメールで返信を。アドレスは―
 jhiroshima@jaccc.org
 
レスリー・イトウ
 パサデナ市生まれの日系4世。スタンフォード大学ビジネススクール内にあるアートの非営利団体指導者を対象とした管理プログラムを卒業し、UCLAでアジア系アメリカ研究の修士号を、マウント・ホールヨーク大学でアメリカ研究の学士号をそれぞれ取得。今までにカリフォルニア・コミュニティー基金、ロサンゼルス郡アートコミッション、フォード基金などに勤務し、アートの振興に力を注いだ。かつて、ビジュアル・コミュニケーションズの最高責任者を務めていたこともある。現在は、夫でアーティストのスティーブン・ウォング氏とサウスパサデナ市在住。6歳と7歳の2児の母でもある。

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