娘の出産手伝いでこの春出かけたケンタッキーの大学町は、緑の多い美しい土地だったが平坦で、見回せど山も川も見えず、そのことが物足りなく思われた。それがシアトルに戻ると早々に、海と山に行く機会に恵まれ、その上、これまで知らなかった道具の素晴らしさを体感。もうけ物をしたような気分になっている。
 4月末に泊りがけで向かったのは、シアトルの南にそびえるレニア山(4392㍍)。夏になると高山植物が咲き乱れる、中腹のパラダイス(1647㍍)はまだ雪の中で、道路こそ除雪されているものの、駐車場は2メートル以上の雪の壁に囲まれていた。
 雪面を恐る恐る歩くと、ズボリと足が沈む。数人の子供たちが「おばちゃん、スノーシュー使うと面白いよ」と言いながら雪遊びに興じており、私も翌朝、レンタルのスノーシューで再度真っ白い世界に挑戦した。わらじの縁を大きくしたような平たいスノーシューは、見た目は単純ながら、その効果は絶大。前日の雪上の困難が嘘のように、身体は沈まないし、滑ることも無い。目の前にはレニアの山頂が朝日に輝いており、ポールを手にどこまでも歩きたくなる楽しさだった。
 5月に入ると、友人の誘いでレーザークラム掘りに出かけた。I–5を州都オリンピアまで南下し、そこから西へ1時間ほど行くと、太平洋に出る。浜は大潮の引いた固い砂地がどこまでも続き、シーズン最後の収獲を狙って集まった車がすでに何十台と並んでいた。
 ここで初めて使ったのが、レーザークラム・ガン。砂地にぼんやりと輪を描いたような小さな穴を見つけ、直径10センチ位の円筒形のガンを上からグイと押し込む。30センチほどの深さに到達したところで、空気抜きの穴を指で押さえながらエイと引き戻すと、持ち上げた砂の中か穴の底に、レーザークラムを見つけることが出来る。これもまた、単純な道具には違いないが、何とうまく出来ていることか。
 スノーシューとレーザークラム・ガンの初体験は、新鮮な驚きと喜びをもたらした。コンピュータに頼り、電子レンジに頼る日常だからこそ、いっそう感じたのに違いない。【楠瀬明子】

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