明け方、携帯電話が鳴った。一度は間違い電話かもしれないと放っておいたが、何度も鳴るので出てみると、2時間前に友人が亡くなったという知らせだった。交通事故だった。
享年41。奥さんと、5歳と4歳の娘を残して、たくさんの友人を残して逝ってしまった。
その日の夕方、事故現場でキャンドルサービスが行われた。SNSを通じて瞬時に情報が駆け巡り、あっという間に100人以上が集まった。誰もが「信じられない」と現実を受け止めることができなかった。
趣味の世界では広く知られた存在だったので、いろいろな国から彼に会いに来る人間がいた。相手が初対面で緊張していると、彼が握手のため手を差し出す。相手が差し出すと、さっと手をのけて自分の髪の毛をなでる、といったクラシックジョークで笑わせた。緊張でガチガチな相手もあっという間に笑顔。人懐こくて、国籍や男女を問わず、皆公平に付き合い、誰からも好かれた。
誕生日、サンクスギビング、ニューイヤーと、ことあるごとに、家族ぐるみで招待してもらった。全身刺青だらけで、大柄でひげづら。ちょっとコワモテだが、腕のいい料理人で、ゲスト一人ひとりに料理は足りているか、と声をかけるのを忘れない気遣いがあった。
そんな彼にもダークな一面があり、いつも金銭的トラブルを抱え、アルコールとドラッグの深みにはまっていった。事故の直前には、「これからは娘たちを連れて教会に行こうかと思う」と話していて、なんとか自分を変えたいと思っていた矢先だった。
葬式の日には、600人以上の友人が集まり、最後のお別れをした。家に戻り、主人と亡くなった彼の話をしていると、しんと静まり返った家のどこかから「パシ」という音がした。気のせいかもしれないが、彼がお別れにきたような気がした。
「毎日を楽しむことしか考えなかった彼に笑われないようにしよう」そんなメッセージが別の友人から届いた。ただ生きるのではなく、楽しんで生きる。そうやって生きていけば、いつか彼に言いそびれた言葉がいえるかもしれない。「いつも楽しませてくれてありがとう」【下井庸子】