「自分と結婚しなければ、奥さんにこんな辛い思いをさせることはなかった。そう思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだよ」
 前回日本へ一時帰国した際、小学校時代の友人男女10人程度が集まり、ミニ同窓会を開いた。これは、その時に参加したひとりの友人男性の言葉。彼は、4年前に結婚して以来、妻と不妊治療を続けていた。
 不妊というと女性だけに原因があると思われがちだが、友人夫妻のように男性側に原因がある場合も多い。友人の場合は、精子の数の減少と、運動率が極めて低いことが不妊の原因だったという。
 世界保健機関(WHO)の調査によると、不妊の原因が女性のみにある場合は41%で、男性のみにある場合が24%、一方男女ともに原因がある場合は24%となっており、不妊症は決して女性だけの問題ではない。
 子どもが大好きで、幼稚園の教諭として働くその友人の奥さんは、文句1つ言わず、肉体的、精神的に苦しい治療や流産を夫婦で乗り越え、2回目の体外受精で無事、健康な男の子を出産した。
 驚いたことに、ミニ同窓会に集まった10人のうち、約半数が不妊治療をしていることが分かった。妊娠できにくい不妊症だけでなく、妊娠はするが流産を繰り返してしまう不育症に悩む友人もいた。さらに、回りで不妊治療をしている人を知っているのは全員だったのにも驚いた。
 友人はみな、口をそろえてこう言う。「若いころ、避妊や性感染症に関する情報は耳が痛くなるほど聞いたが、不妊症や不育症については誰も教えてくれなかった」「加齢とともに精子や卵子の質が低下すると分かっていれば、結婚後も仕事に没頭せず、すぐに子作りしたのに」
 ストレス社会、女性の社会進出、晩婚化など、不妊症や不育症が増えている原因はいろいろあるが、われわれのように「知らされていなかった」とならぬよう、今後は避妊や性感染症に加え、不妊症や不育症の教育も必要だ。
 また、アメリカではすでに行われている「健康な独身女性を対象とした未受精卵子の凍結保存」に関しても、日本生殖医学界が現在採用を検討しており、そろそろ認める時期にきているように思う。【中村良子】

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