人は富を求めて動き回る習性をかかえている。15世紀から17世紀半ばにかけての大航海時代はもちろん、現在、世界の経済大国といわれるアメリカ、中国、日本やヨーロッパの経済強国といわれる国々の企業は、利益追求を第一の目的として東南アジア、中南米、アフリカ諸国にほぼ例外なく進出している。
本格的な経済のグローバル化の中で、日本企業の海外進出は、旺盛な購買力のあるアメリカにまで及んでいる。優良日系企業による雇用はアメリカ経済を潤し、いわゆる「日本株式会社」で働くことが一つの社会的ステータスになっているほどだ。
日本人を「ボス」に持つアメリカ人労働者も、1980年代ごろまでは一種のカルチャーショックを感じていたものの、今では日本株式会社に同化する努力を重ねているようだ。
いくつか例を挙げると―
▽決して残業を拒まず、仕事の後は共に飲みに出かけて、カラオケの一つも歌えるようになる。ボスより先に帰宅しようなどとは、ゆめゆめ考えないように心掛ける。
▽刺身を口にすることを恐れない。刺身は極上のフィレミニオンと心得る。
▽会議や商談の際、「イエス」の意味は「たぶん」、「たぶん」の意味は「ノー」だと理解する。
▽たとえボスと意見が衝突しても、冷静に構えて忍耐する。日本人ボスは論争を好まないから、クールでいられる自信がないならイタリア人の会社へ転職を考える。
▽奇妙な英語を話すボスとのコミュニケーションを図るため、身振り、手振りの「サイン・ランゲージ」習得に励む―など。
日本人ボスの下で働く秘訣を、皮肉を交えて言い表したものだが、当たらずとも遠からずの面もあり、苦笑を禁じえない。
とはいえ、相対的にみれば、「日本株式会社」で働くチャンスを得た人からは「職場環境もよく、給与や保険制度などにもおおむね満足している」との声が多いようだ。
世の中で一番悲しいことは、働く意思と能力があっても仕事がないことだといわれる。多少のカルチャーショックを感じたとしても、それを乗り越えていかなければならないのも、グローバル社会の宿命なのだろう。【石原 嵩】