画面に一人の東洋女性。一尺ほどの白い羽根を指に乗せバランスをとる。足元の白い土俵大のサークルには積み上げられた大小の木の枝。1本の枝を取り上げて羽根を移し、また1本の枝を取り上げてバランスを取りながら積み重ねてゆく。枝は次第に大きさを増し、全体は少しずつ重くなる。審査員や観客は固唾(かたず)をのんで見守る。口を半ば開き、目をいっぱいに見張り、緊張が画面からヒシヒシと伝わる。枝の大きさが増すにつれ、片膝つきから中腰へ、足で枝を手元に運んでは継ぎ足してゆく。いまや大きなバランスの枝の集合体となった構造物を手に捧げ立ち上がった彼女は頭の上に乗せる。
 これはパフォーマンスのコンテストであろうか? サークルは舞台の中央、正面に3人の男女の審査員、その後ろが観客席。構造物を頭に乗せぐるりと回ってみせた彼女は最後に残った太枝を足で立て、頭から太枝の先に構造物を乗せて観客に一礼した。緊張から解き放たれた審査員は思わず拍手。観客は立ち上がってスタンディングオーベイション。やおら姿勢を正し、最初の1枚の羽根に近寄った彼女は、そっと手を差し伸べて白い羽根に触れ手に取った。瞬間! あっという間もなくすべての構造物はバランスを失いバラバラと元の木の枝となって足元に崩れ落ち散る。場内は深い感動に包まれ万雷の拍手。「There are no word to describe Miyoko Shida’s performance」アメリカの友人が送ってくれたYouTubeである。
 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり…宇宙のありとあらゆるものは常に変化し一瞬たりとも留まるものはない、しかもその変化は相互に関係し合い、Aの動きはBに、Bの動きはAやCやDに影響を与える。すべてのものが影響を与え合い常に流動している。因があれば果があり、現象には必ずその原因がある。これがブッダの悟った宇宙の姿。絆は昔から人間社会の根底を築いてきた。それらを結び合わせているのは微妙なバランス。そのバランスが崩れた時に人々の絆も崩壊する。画面を見ながら深い感動に包まれた。【若尾龍彦】
 https://www.youtube.com/watch?v=K6rX1AEi57c

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