ミズーリ州ファーガソンのマイケル・ブラウン事件に続いてニューヨークのエリック・ガーナー事件も、大陪審は警官を不起訴処分にした。
 2件とも被害者は黒人であり、当事者の警官は白人。当然この決定は人種差別を大きく事件の前面に押し出し、地元だけでなく全米各地で激しい抗議行動が起こされた。
 デモをコントロールしようとする警官たちとの衝突から、路上に駐車された車を転覆して炎上させ、商店への放火、建物の破壊、混乱にまぎれて商品の略奪と、一時は本来の抗議行動から暴動へと発展した。
 抗議が始まってから二週間が過ぎたが、抗議デモは各地で続けられており、クリスマス商戦に突入しようとした大手企業がボイコットされ閉店する一幕まであった。
 人間は感情が高ぶれば物事の判断を誤り、善悪の見境もなくなる。
 抗議行動を良しとするものの、感情に流されて留まるところを知らず、警官の暴力に暴力で抗議する形になる時、やはり疑問をおぼえる。
 そんな中で、12月6日の夜、プロ・バスケットボールのゴールデンステイト・ウォリアーズとの対戦を控えて、ウオームアップのためにコートに現れたシカゴ・ブルズのガード、デレック・ローズ選手の黒いTシャツの胸に白く、「I CAN’T BREATHE」と染め抜かれた抗議のスローガンが多くの観衆の注目を浴びた。
 警官に背後から首を絞められながら「息ができない」と何度か訴えたガーナー被害者の言葉である。
 ローズ選手は黙々とウオームアップを続けながら、同じ黒人として、法律が人種に関係なくすべての国民の上に正しくあるべきことを、一言もしゃべらず、静かに抗議し続けた。
 彼が花形選手であり、報道陣のカメラが並ぶバスケットボールのコートならお膳立ては揃っている。一般人が同じTシャツを着て街を歩いたとして、一体どれほどの効果があるだろう。
 たとえ彼の行動が計算づくであったとしても、自分の立場を生かして最大限の効果を挙げたローズ選手の静かな抗議に拍手を贈りたい。
 この夜ブルズは残念ながら10点差でウォリアーズに敗れた。
【川口加代子】

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