「お笑い芸人」という呼称はいつ頃できたのだろうか。それまで新宿や浅草の寄席や芝居小屋で客を笑わせていた漫才師やコメディアンがテレビの司会者やレポーターとして起用され、今や「お笑い芸人」なしではテレビやラジオはやっていけないぐらいになっている。
 もっとも「お笑い」という語彙には「お笑い種(ぐさ)」とか「とんだお笑い種」というように〈物笑いのたねになる〉といった蔑視的ニュアンスがある。「テレビやラジオは彼らを使ってはいるが、内心ではある種の蔑みがある」(作家の小林信彦氏)。
 その「お笑い芸人」の二人が話題になっている。
 一人は、お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹(34)。今年1月発売の「文学界」に純文学デビュー作『火花』が掲載され、累計部数が同誌(創刊1933年)史上最高の4万部に達した。3月に出た単行本は25万部も売れている。
 『火花』は、芸人である「僕」をナレーターに才気溢れる先輩芸人と過ごした青春を描いた中編小説。その鋭い観察眼と独自の文体が高く評価されている。「お笑い芸人」は仮の姿だったのかもしれない。
 もう一人は政治社会風刺を題材にする「社会派漫才」ともてはやされているA(49)。そのAが、ラジオ番組で移設問題で政府と沖縄県との対立が深まっている普天間基地問題を取り上げ、「安倍っていうバカのやってることは幼稚すぎる。総理大臣でもバカはバカでしょ」と「バカ」「バカ」を連呼したという。
 さすがに「総理大臣を貶しておけば、俺インテリみたいに思っているバカ芸人」と非難されたが、逆に「よくぞ、言った」と喝采するものもいる。
 1週間後、所属する芸能プロの社長(Aの妻でもある)が「無礼な発言。言っていることには賛成だが、(バカ呼ばわりしたことで)言葉が大切なメッセージを消してしまう」と苦言を呈した。言葉は芸人にとっては命。かって社会風刺漫才で一世を風靡(ふうび)したコロンビア・トップだって総理大臣をバカ呼ばわりなどはしなかった。
 居酒屋談義ならともかく、公共の電波で議会制民主主義で選ばれた宰相をバカ呼ばわり。折角、世間で認知され始めている「お笑い芸人」の品位を貶めかねない。それを許している媒体も媒体だ。「お笑い芸人」にラジオが馬鹿にされている証拠だ。【高濱 賛】

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