エリックとは現ロサンゼルス市長エリック・ガーセッティー氏のことだ。同市長は高校生の時、交換留学生として日本を訪れ1カ月間滞在した。家族の一員としてひと夏を過ごし、今も「日本の家族」と呼ぶホストファミリーの吉田正二朗さん、妻・珠子さん、瀬戸春子さん(旧姓、吉田)に少年時代の市長との思い出を語ってもらった。【取材=吉田純子】
同市長が通っていたロサンゼルスのハーバード・ウェストレーク・スクールは東京都町田市にある玉川学園と提携し、交換留学プログラムを実施していた。親日家でもある両親の影響のもと市長は同プログラムに応募し、念願の日本行きの切符を手にした。
参加した留学生はおよそ10人。夏休中の6月中旬から7月中旬までの約1カ月間を日本で過ごし、日本人家族と生活しながら学校に通い日本文化を学んだ。留学生たちは書道や陶芸、折り紙、墨絵などの授業を受け、日本の文化に触れるとともに、英語のクラスにも参加。日本人学生に交じりながら日本式の授業も体験した。
市長はホストシスターである春子さんと毎朝電車に乗って登校した。学校でも場の盛り上げ役で、人気者。「皆から好かれていたようで『いい子がうちにきたな』と思いました」とホストファザーの正二朗さん。
「エリックはとても察しがよく、こちらの慣れない英語にもすぐに理解を示してくれるのです。子どもながら気遣いが出来る子だなと感心したのを覚えています」と珠子さんも振り返る。
畳が好きだというエリック少年からは和室に泊まりたいとリクエストがあった。日本ではベッドではなく畳に布団を敷いて寝ることも来る前から知っていたという。
日本での生活にはすぐに慣れ、滞在期間の1カ月間はずっと畳の和室で過ごし、布団で寝ていた。上げ下ろしも自ら率先して行っていたという。
ホストマザーの珠子さんからすると、食べ物も口に合うか心配だった。「本人も一応来る前は気にしていたようで、万が一のためにビーフジャーキーを大量に持ってきていたのです。でも最後まで食べることなく『余ったから』と言って置いていってくれたのです」
一家と市長の友情は帰国後も途絶えることはなかった。春子さんと市長はその後も文通を続け、お互いの結婚も手紙で報告しあった。一家はその後も数回再会している。
そんな市長のハネムーンの行き先も日本だった。春子さんは自身の夫と子どもたちを夫人に紹介し、鎌倉を案内して夫妻をもてなした。
昨年11月、市長は就任後初めて日本を公式訪問。外国人記者クラブでの会見では吉田さん一家のことを語る一幕もあった。日本には1日だけの滞在だったが、24時間という短い滞在時間の中、昼食を共にし、一家はロサンゼルス市長となったエリック少年と初めて対面したのだ。
春子さんにとって市長は本当の兄弟のような存在。「エリックと過ごせて私たちも楽しかった」。日本の家族はいつまでの市長の活躍を応援している。
人生観変えた転機
ガーセッティー市長語る
もっとも印象的だったのが、日本の歴史を通して日本人が持つ尊敬の念、伝統を重んじる心について学べたことだったという。
留学先の玉川学園では日本画や剣道など日本文化を学べるさまざまなクラスを受け、日本人の学生とも交流した。特に剣道が楽しかったと振り返る。
「飛び級していたのでほかの留学生と比べると年も若く背も低かったのです。でも日本の生徒からすると老け顔だったようで18歳くらいに見えていたようです」と笑ってみせた。
市長は今でも玉川学園の校歌を覚えており、「空高く野路は遥かけし〜」と日本語で歌声を披露してくれた。サービス精神旺盛だ。
滞在期間中は京都や広島も観光し、充実した1カ月を過ごした。
ホストシスターの春子さんとは毎朝一緒に登校し、日本の通勤・通学風景が印象深かったと話す。特にロサンゼルスは車社会であるのに対し、日本では多くの人が電車やバスを利用し、公共交通機関が充実していることにも驚かされた。現在、メトロの理事長も兼務する市長にとって、当時日本でみた光景が今のメトロ運営にいかされているのかもしれない。
人々が通勤や通学途中にある地元のパン屋さんで出来立てのパンを買う光景も新鮮だったと話す。
帰宅後は当時一家が飼っていた犬の「コロ」とよく遊んだ。ホストマザーの珠子さんが作ってくれる日本食も大好きで、特にすき焼きがお気に入りだった。「日本の母(珠子さん)がすき焼きの作り方を教えてくれたので、私は今でも上手にすき焼きが作れるのです」と自信たっぷりに話してくれた。
ホストファミリーの吉田さん一家は今も市長の「日本の家族」。「当時家族が住んでいた世田谷区松原は僕の第二の故郷だと思っています」
そんな市長のハネムーンの行き先ももちろん日本だった。妻のために自ら美味しいカツ丼や寿司、そば、懐石などの店を調べ、連れて行ったという。「日本の人々と育んだ友情は今も私の心に生き続け、これからもずっと続いていくのです」
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