三鷹駅周辺を歩いていると、住宅街の中に小さな店舗がありました。店舗といっても六畳ほどの広さで、ガラスの外から覗いてみると、置いてあるのはスチールの本棚とガチャガチャ(お金を入れるとおもちゃの入ったカプセルが出てくる機器)だけでした。しかも中には誰もいません。店の名前が書かれた看板も無ければ、ここが何を売る店であると書いたものは見当たりません。何か泥棒になったような気分で、ガラスの扉を開けてみたのですが、やはり本以外のものはなく、人通りの少ない住宅街に図書室が必要なのかと思いながら、本棚から本を一冊取ると値段が書いてありました。そこで、ここが無人の書店であることが分かりました。
それよりどうやって本の代金を支払うのかと考えていると、入り口の近くにあったガチャガチャの不自然さに気がつきました。本とガチャガチャ、どう考えても結びつきません。子供の本はあるのかと見回してみると、お金の払い方が書いた手書きの説明書きがありました。本の代金をこのガチャガチャに入れるのだそうです。その発想の面白さに笑いがこみ上げました。考えてみれば田舎にある無人の野菜売り場と同じです。ガチャガチャにお金が溜まって危なくないのかと考えてしまうのは、こちらの勝手な危機感でしかありません。
丁寧にもガチャガチャから出てくるカプセルの中にはコンビニ袋が入っており、それに本を入れて持って帰ってくださいとのこと。他人をまず信用するところから始まる日本人的な商売の発想は素晴らしいと思いました。
ただし、どう計算してもこの店が成り立つとは考えにくく、後で店主に聞いたところ、この書店を作ったのは町の書店がどんどん無くなってしまったからだとのことでした。本を売ることで、知らない誰かを本で幸せにしようという考えがこの店主にはあるのだと思いました。こんな素敵な取り組みの書店から買った本からは、貴重なことを学ぶだろうと考えると、気分が良い一日になりました。【朝倉巨瑞】