ここ数年、家庭の事情で日米間を数カ月単位で移動している私たち夫婦は、この『磁針』原稿の送信をはじめ、仕事のほとんどをインターネットに頼っている。困るのは、介護のために福岡の実家に滞在する時だ。92歳の母は、コンピュータとは無縁の暮らし。家でインターネットは使えず、近くにネットカフェも無く、実家暮らしは陸の孤島化する。
 そんな時に日本政府が、訪日外国人観光客の声に応えWi-Fi利用可能なホットスポットを国内3万箇所に設置する方針をうち出したのは朗報だった。その上、ネットで調べると、実家のある市では既に「無料Wi-Fiサービス」がスタートし、フェリー乗り場などでインターネットが使えるという。
 市役所ロビーもその一つ。そこで先日、ノートパソコンを抱えて市役所へ出かけた。テーブル下には電源もあり、試行錯誤の末にネットがつながった時の嬉しさ。片道30分ほど歩かねばならないが、これからは安心して帰省出来るとほっとしたものだ。
 ところが、数日後に再び市役所を訪れると、前回利用出来た電源差し込み口が、赤いテープで封じられている。「Wi-Fiは無料で使っていいが、電気はダメ」と財政課の係長氏。図書館やスターバックスなど、日ごろアメリカのホットスポットでの電源利用に慣れている私が、日本も同じようなサービスが始まったと思ったのは、ぬか喜びだったらしい。
 スマホはまだ持たず、古いノートパソコンの電池寿命には限りがあるという事情では、電源が使えると大いに助かる。「では、電気代50円なり100円なりを設定しては」と提案したが、「そういう訳には」の繰り返し。しかし、本気で無料Wi-Fiを提供するのなら、電源が必要な者を助ける思いやりも欲しい。まして実家のあるこの市では、地元の宗像大社や沖ノ島を世界文化遺産にと運動中。もっと広い視野をと願うばかりだ。
 外国人観光客だけでなく、介護などで帰省する者も、旅行者も、インターネットを使えない時に困るのは皆同じ。成田では、新たに空港内各所に公衆用無料電源が設置され、多くの人が空港Wi-Fiサービスを利用していた。【楠瀬明子】

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