高齢者の共通の話題は健康の話だろう。昨日まで、無意識に出来ていたことが、今日出来なくなる。小さな転倒やけがで、体は二度と元には戻らなくなる。体の部品が一つ二つと壊れる。これが「年をとるということ」と、実感する。
 友人、知人の訃報を聞くのが日常になってきた。骨折がその引き金だったことが多い。二、三段のステップの梯子(はしご)に上がり、天井の電球を取り替えようとした。バランスを崩して落ち、後頭部を打って亡くなった。あるいは、床のわずかの段差で転び、壁の角に頭をぶつけて亡くなった。こんな信じがたい話が数件あった。
 中でも驚いたのは、若々しく活躍していた友人二人がほぼ同時に骨折してしまったことだ。知性と行動力が売り物の男性は仕事にコーラスに奔走していたが、台所で足を滑らせ、カウンターの角で胸を打ち、肋骨を3本折った。版画家で日米で展覧会をする女性はジムで運動している時に足を踏み外し、右の鎖骨を折った。
 年寄りが寝たきりになる三大原因は脳卒中、認知症、骨折だそうだ。簡単に骨折が起こる原因は体内の水分が少ないこと、骨が弱くなること、筋力が衰え、骨を守るものが薄いためだそうだ。恐ろしいのは、痛みのために、身体が不自由になり、全身の持久力が落ちること。身の回りの世話を他人に頼む。足腰が弱り、生活意欲がなくなる。認知力も低下し、ボケがはじまる。生きる意欲が失せる、という下り坂である。どれも思い当たる節がある。
 その上、米国生活で困るのは、運転が出来なくなること。足がないのは何より不便だ。
 思わぬ事故は防げないこともあるが、常日頃、自分で予防出来ることはある。適度な運動、カルシウムの摂取、太陽に当たるなど。
 それより何より、健康な間にやらねばならぬこと、やりたいことを思う存分やり遂げていることだろう。事故が起こった時「十分に生きた、これでいい」と素直に現実に立ち向かえるように。自分に与えられた時間を使い切ったというだけのことだ。グチはいらない。【萩野千鶴子】

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