お手製らしい金柑ジャムが送られてきた。拙書をお送りしたお礼である。英語書きのレシピが添えてあり、手紙にはこうあった。
 この金柑ジャムはことの外、評判が良い。作り主は最近このジャムを作っている途中で体調を崩し、お嬢さまがベッドに寝た母親から聞き取りをして、レシピを書き残すことが出来た。そのレシピを頂いたので、あなたにも差し上げます、とあった。その方はその後亡くなられたというから、遺言ともなったレシピだった。
 その金柑ジャムは一口舌にのせると、金柑のあの酸っぱい味を残しながら、自然の濃厚な甘さのオレンジが加えられたなんとも言えないまろやかな味だった。甘みがとろりと口に広がり、たくさんの人に愛されるわけだと納得した。レシピを読むと、作り方は何段階にも手間隙がかけられている。美味しいジャムを作りたい、待っている人を喜ばせてあげたい、そういう気持ちがなければ出来ないレシピだった。長年改良し、このレシピに行き着いたのだろう。
 何かの集まりの時にポトラックで得意料理を持ち寄ることが多い。この習慣は女性たちを鍛える。自分の手料理を皆が喜んでくれるだろうか、結構ドキドキするものである。料理がなくなると胸を撫で下ろし、売れ行きが悪いと何が悪かったのだろうと反省する。そして段々と自分の定番料理が出来てくる。
 レシピを聞かれた時は気持ちよく教えるのがマナー。教わった人は誰のレシピであるかをきちんと伝えるのもマナー。こうして社交の場が広がる。教えてもらったレシピの一つで重宝しているものもある。お好みの野菜を醤油、酢、サラダ油を調合したものを熱く煮立たせ3回注ぎ、その後は一夜漬けにするだけ。とても簡単で、美味しく、野菜もたっぷり摂取できる。名前は「マリー漬け」なんとなくしゃれている。駐在員の奥さまが夫が行きつけのバーのマダムから教わったレシピだとか。
 もらったレシピで料理を作りながら、作り手に感謝し、自分もこのレシピを伝えて行こうと思う。会ったことのない人と人とが密かにつながる。【萩野千鶴子】

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