おおかたの予想に反して第45代大統領に当選し、意気揚々とVサインを掲げたドナルド・トランプ氏(共和)。かたや、「初の女性大統領になるんだ」といった自信をみなぎらせ、投開票が始まるまで勝利を信じて疑わなかったヒラリー・クリントン氏(民主)の焦燥ぶり。
 選挙は水物、ふたを開けてみなければどっちが勝つか分からないとはいえ、メディアの予想がことごとく外れた大統領選も珍しい。世論調査がいかに不確定要素を含んだあやふやなものであることを、さらけ出した。
 今回は特に、いわゆる「隠れトランプ」の存在をしっかり掴み切れていなかったことが、「番狂わせ」と映る結果につながった。
 街頭調査などで「人種差別、女性蔑視、眉をひそめるような暴言を繰り返すトランプ候補に、あなたは投票するか」と問われて、「する」と答えたら自分も差別主義者だと思われるのを恐れた有権者たちが確実にいた。
 アルバイトの世論調査員に正直に答える義務はないので、あえて態度未定と答えた「隠れトランプ」。その後の調査で高学歴、高収入の白人層を中心に全米に500万人以上いたと推定されている。
 トランプ支持者は落ちこぼれの白人層としていたマスメディア報道は「隠れトランプ」の実態を把握しきれなかったわけで、エスタブリッシュメント(体制側の支配層)の象徴でもあるクリントン氏に対する国民の根強い不信感を捉えきれなかった。
 もともと、「どちらの候補者にも投票したくない」「少しでもましな〈悪魔〉を選ぶ」ともいわれた異例の大統領選。クリントン氏寄りの報道があふれる中、トランプ氏は取材に集まった報道陣を前にして「お前たちは嘘つきだ、間抜けだ」と遠慮会釈なく罵倒する。メディアを敵に回す彼のこうした態度も、クリントン氏優勢の論調につながっていったようだ。
 トランプ勝利が確定すると、トランプ氏を次期大統領として認めないとするデモが各地で起きた。中にはトランプ氏の向こうを張ったような暴言も飛び出す。そしてマスメディアはまた、デモ隊に同調するかのようなニュースの取り上げ方をする。
 民主主義の根幹であるはずの選挙結果を否定する姿勢は、いかがなものか。トランプ氏が目指す「ワシントンに溜まったヘドロを押し流し、グレイト・アメリカを復活させる」道のりは、まだまだ険しい。【石原 嵩】

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