7月28日、夜8時、ロサンゼルス・ダウンタウンのディズニー・コンサートホールでベートーベンの第九(交響曲第九番)が演奏された。LA各地、サンフランシスコ、そして日本からの参加者30名も加わり、総勢250名の日米合唱団に76名の米国人オーケストラ。これだけの人数が集まると舞台は壮観で、演奏はダイナミックだ。聞く方もさぞかし満たされたことだろう。合唱団の一員として参加した私も音楽の醍醐味を味わえた。Bridge to Joy の企画を遂行されたLA Daiku、日米文化会館、日米協会、JBAの方々の惜しみない献身に敬意を表したい。
 世界屈指の音響を誇るディズニーホールは、外観は前衛建築家、フランクゲーリーの銀色の斬新なデザインだが、ホールの形も変わっている。卵を寝かせたような、ノアの箱舟のような形で、その命の音響は日本人音響設計家、豊田泰久氏の手になる。舞台の上で発した音は上に昇って広がり、美しい響きとなって客席後部まで届くことで定評がある。マイクやスピーカーを使わないクラシックのコンサートには実に理想的なホールだ。世界の演奏家が一度はここで演奏したいと、憧れるのも無理はない。
 音楽はまさに世界共通語であり、世界中の誰の心にも一直線に届くのがいい。自分に正直に、胸の内にある思いを音に託して歌い、奏でる。耳の聞こえなくなった晩年のベートーベンの音楽が、190年の時を経て、変わらぬ情熱をもって演奏され、われわれの胸を打つ。
 よく日本人は第九好きだといわれる。全くの静寂から始まり、やがて遠くから足跡がヒタヒタと迫り、最後に大爆発する曲の構成が日本人気質にピッタリ当てはまるからだろう。ししおどしの音を愛でる耳、ひた走る忍耐、溜まった思いを一気に決行する覚悟の清さ。どれも日本人の優れた点だ。指揮者のバーンスタイン氏が、皆さんと一緒に自分の子供の頃からの夢が叶うと、涙する場面もあった。まさに日米の歓喜の橋が懸かった瞬間だった。音楽は時空を超えて喜びを届ける。【萩野千鶴子】

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