店主のジムさんは広島県出身の祖父母の血を引き継いだ日系3世。ボイルハイツの出身で、2歳前だった大戦中にはアリゾナの日系人収容施設にいたこともあるという。戦後ヨーロッパを一人旅している列車の中で奥さんの美代子さんを見染め、アメリカへ招いて電撃結婚に至った。
当時大手小売り店に勤めていたナカノさんは、「温かいドーナツが食べたい」という美代子さんの一言でドーナツ屋開店を決意。バーバンクやパサデナが店舗の候補に上がる中、「近隣住人が好きだから」という理由でグレンドーラを選んだ。南北を小高い丘に挟まれた小さな街。70年代後半に「ルート66」と名称変更された東西の道、これが唯一の大通り。
「近くでイチゴ農家をしていたチェス・ナカノという常連客がイチゴを使ったドーナツを作らないかと誘ってきた。ベーカリーをしていた友人にイチゴグレーシーズを習い、74年に売り出した」
イチゴドーナツは瞬く間に店の看板メニューになった。丸ごとのイチゴが溢れている見た目のインパクトは相当なものだ。「イチゴが品薄な年でも確保してくれる仲間がいる」そのおかげで、細く切ったりペーストにしたりすることなく、丸ごと使用のこだわりを持ち続けられるという。
順風満帆だった70年代とは違い、80年代は売り上げが45%も落ちた。マクドナルドやバーガーキングなどのファストフード店が朝食メニューを始めたことで、ドーナツを買いに来る客が激減したのだ。「あの時期は苦しかったが90年代から少しずつ持ち直し、ネットの広がりやSNSの活用で、今が一番順調だよ」
長さ30センチほどもあるタイガーテールやさっくりと軽いフレンチクルーラー、オールドファッションなどの定番メニューも人気だ。
「日系社会にサポートしてもらった分、恩返しを続けていきたい」とナカノさんは語る。
コビナ在住のマイケル・オルーケさんは「付近の大学生や常連客に愛されている場所だ」と、自身も長く通うこの店について述べた。
週末は列に並ぶ覚悟で、ルート66沿いの「Donut Man」の看板を目指してドライブするのも楽しいだろう。
Donut Man
915 E.Route 66, Glendora CA 91740
(626)335-9111
www.thedonutmanca.com