近所の行きつけの珈琲店でモーニング。至福のひとときなのに、どうしてもツッコミを入れたくなるフレーズが耳に飛び込んでくる。——「お客さま、おタバコはお吸いになられますか?」
喫煙者に対するその異様なほどの丁寧さ。店員さんに言ってあげたくなってしまう。「そんなに親切に扱ってあげる必要なんてないですよ。あなたも副流煙の被害者です」って。
想像はしていたけれど、アメリカから戻ってきてやっぱり驚いた。いまだ喫煙者が市民権を得て、悪びれることなく堂々と吸っていたりする。しかも、レストランやカフェでは、なぜか吸う人の方が早くサービスを受けられることも多い。分煙をしている店では喫煙席のほうが空いているからだ。一方で、禁煙席は混んでいて長く待たされるハメになる。中には、仕方なく喫煙席を選ぶ人もいる。こういう場面に出くわすと、カチンときてしまう。
やっぱり黙ってはいられないので、私なりに対策を講じている。まずは隣の人が吸っていないかチェック。火をつけたら「タバコの煙がダメなんです」とはっきり伝える。喫煙者の席に案内されそうになると、当人に聞こえるように「タバコの煙は無理です」と丁重にお断り。地道な草の根活動である。
今月6日、東京都が独自の受動喫煙防止条例案を議会に提出した。従業員を雇っている飲食店内を原則禁煙として、違反者への罰則も設ける。対象は都内の飲食店の約84%に上るという。既得権益からの圧力などもあって「骨抜き」になっている国の法案よりも厳しいのだ。
東京都の英断に拍手を送りたい気持ちだが、この条例案も一筋縄ではいかなさそうだ。最近は都内の飲食店主たちが200人ほど集まって、新宿でデモ行進を行った。そこでは「お客の楽しみを奪うなー」などと訴えていたそうだ。
その珈琲店の店長は愛煙家。でも、2020年の東京五輪を前に全面禁煙にしたいと言っていた。禁煙にしたらしたで、なんとかなるだろう、と。300円のパンケーキが絶品のお店。分煙とはいっても匂いがネックだったから、つい嬉しくて言ってしまった。「完全禁煙になったら時々アルバイトさせてください」と。店長からは内定をもらっている。【中西奈緒】