「故郷はリトル東京」
 ロサンゼルスの街中の至るところで目にする壁画。LAの街に溶け込み、まるでアートギャラリーを散策しているかのように道行く人々の目を引く。今やロサンゼルスを象徴する名物だ。
 羅府新報社のオフィスは小東京とアーツディストリクトのちょうど中間に位置し、こうした壁画を街のあちこちで見つけることができる。
 アーツディストリクトはかつて倉庫が建ち並ぶエリアだったが、いつしかアーティストが住むようになり、今もアトリエやギャラリーなどが数多く点在する。今では観光客が記念撮影に訪れ、インスタ映えするスポットとしても人気のエリアだ。
 羅府新報社のオフィスの建物の側面にも壁一面に壁画が描かれており、時折、色鮮やかな壁画を背景に写真撮影をする人々の姿を見かける。
 そんな地域で先月、目を覆いたくなるような事件が発生した。小東京のジャパニーズ・ビレッジ・プラザにある壁画に落書きが見つかったのだ。「Home Is Little Tokyo(故郷はリトル東京)」と題した壁画は2005年に完成し、以降、ジャパニーズ・ビレッジ・プラザのセントラル通りに面した場所に設置され、小東京のシンボルとして親しまれてきた。
 壁画には桜や千羽鶴、餅つきをする子どものほか、戦中の日系人強制収容所の監視塔、うちわ片手に踊る和装姿の女性、中央にはキャンドルをともすおばあさんと2人のこども、太鼓奏者の側には日系人強制収容の時期と重なる1940年代に活躍したサックス奏者チャーリー・パーカーの姿も。
 壁画には日系人の歴史が刻まれ、ロサンゼルスで培われた日本文化も描かれているのだ。そしてこんなメッセージも添えられている。「ロサンゼルスの小東京はわれわれの心の故郷です」
 落書きは日系人の歩みを表す絵とメッセージをかき消すがごとく、壁画の下部分に描かれていた。なんとも許し難い行為である。今はすっきり除去され、壁画は元通りの姿を取り戻している。しかしこれだけは声を大にして言いたい。たとえ誰が小東京の壁画に落書きをしようとも、日系人の歴史までも消すことはできないのだということを忘れないでほしい。【吉田純子】

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