世界的文豪、ゲーテの最後の言葉と言われている。
個人的な好みもあろうが、多くの人は明るい家を好む。家の売買に関わって20年になる。社会の変化とともに、住宅事情も変わってきた。特に最近の引退者専用住宅の変化には、目を見張るものがある。
各地にホテルと見紛う豪華な引退者用コンドが建築され、選択の幅が広がった。長年一軒家に住んでいたから、コンドに移るのはちゅうちょするという人が多かったが、可愛い孫が遊びに来てくれそうな近場にできると、話は別で、すっかりその気になる。
米国西海岸で最大規模を誇るのは、ラグナウッズ市だ。人口1万6千人を抱え、その施設の充実ぶりに54年の歴史が垣間見える。6軒あるクラブハウスではいろいろなクラスやアクティビティーがあり、老人が引きこもって孤立しないよう工夫されている。丘陵に立つコンドの各部屋からは、心を洗う眺望が楽しめるが、庭には樹齢60年になる立派な木々が立ち並ぶ。木もここまで大きく繁ると、命の威厳さえ感じさせる。悠々と屹立する大木に、自分の経てきた長い人生の苦労や喜びを重ね、慰められる人も多いはずだ。
大きな変化の一つは、内装だ。20年前は、暗く古臭い部屋で、一日中電気をつけて、テレビを見ている老人を多く見かけた。締め切った部屋はどこかかび臭く、入ると息苦しかった。病気になっても当たり前のような住宅を見ると、ここには入りたくないと思ったものだった。
ところが今は、大違いである。内部は完璧に改築され、モダンで洗練されたインテリアは若者でさえ虜(とりこ)になる。私もその一員となった老人も、一気に若返り、生活は活気を帯びる。いいわね、入りたいね、と顔を輝かす見学者が増えてきたのは嬉しい。
20センチ大の円形の天窓を暗い廊下や浴室に付けると、柔らかな自然光が部屋を照らす。光がわれわれの気分をどんなに高揚させてくれるかを実感する。
今、引退者住宅には、まさしく新しい光が差し込んできたと言えよう。【萩野千鶴子】