「時の流れ」というものは、(キザっぽく)文豪シェイクスピアを引用すれば、「待つものにとってはあたかも止まっているかのように思える」ものらしい。逆に「時の流れは、恐れ慄(おのの)くものには激流のように速く、嘆き悲しむものには気の遠くなるほど長く、喜び祝うものにはそれは片時(かたとき)にすぎない」。そして文豪は「その瞬間、瞬間を愛(いと)おしむものにとっては、時の流れは永久(とこしえ)である」と優しく抱擁してくれる。
 (知ったかぶりをして)「時の流れは人それぞれによってその速度が違う」というシェイクスピアの名言を科学的に立証したのは、理論物理学者のアインシュタイン博士だ。かの「相対性理論」(一般相対性理論と特殊相対性理論の総称)がそれだ。
 その中で博士は、「動いている物体の中では時間はゆっくりと流れる」と結論づけている。博士の言わんとするところをお茶の水女子大学の古田悦子教授はかみ砕いてこう解説している。(『エネルギーレビュー』2018年2月号)
 「止まっている物体に比べ、動いている物体は縮む。その結果、縮んだ物体はある点に到達するために余計時間がかかる。だからそれを外から眺めている人間にとっては時計の進み方はゆっくりに感じられるのだ」
 年をとると、時の経つのが速いと感ずる。この間、新年を迎えたと思ったらもう7月に入っている。ことほど左様に古希だと思っていたら早くも喜寿を迎える。
 シェイクスピア流に解釈すれば、老いて動かず、(いや、動けないのだ)、来るべきもの(ずばり言って『死』)に(いくら強がりを言っても)恐れているから、時が激流のように流れていると感じるのだ。
 これを「相対性理論」で(おこがましくも)「補足」すれば、「止まっている物体」(つまり高齢者)は「縮む」ことはないから「動いている物体」(つまり若い人たち)に比べ時計の進み方は速くなる。
 そうだったのか。それで小生の時計の針はこんなせかせかと動いているのか。シェイクスピアの名言をかみしめ、独りよがりの「相対性理論」を弄ぶ。この「止まっている物体」は、ひとり悦に入っている。【高濱 賛】

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