ゆりかもめに乗って病院に向かった。車窓から眺める東京の臨海部ではあちこちで工事が行われていた。人間ドックの待合室では、もうすぐ8年を迎える東日本大震災関連のニュースが流れていた。
 私が暮らす東京の江東区や隣の中央区は五輪開催の中心地。東京湾に面していて、会場となる施設がたくさんあり、その多くが新しく作られている。開会式まで500日を切り、何とか間に合わそうと急ピッチで工事が進められている。
 五輪の誘致では「復興五輪」という言葉をよく耳にした。五輪で被災者が元気になり、東北に活気が戻る。復興した姿を世界に見せ、支援してくれた国々に感謝を示す。考えはすばらしいが現実はそうではないようだ。
 ある報道によると都内で競技場の建設が相次いでいる影響で、被災3県では人手不足や資材の入手困難、価格の高騰が起き、地盤のかさ上げなど復興事業の工期が大幅に遅れているという。
 こんなデータもある。新聞社が被災3県で「五輪が復興に好影響を与えるか」聞いたところ、68%の人が「思わない」と答えたという。理由として挙がったのが、震災の風化、東京一極集中、復興事業が滞るといったものだった。被災地は五輪誘致に利用されただけなのか。
 東北の被災地も一部会場になっている。宮城ではサッカー、福島では野球とソフトボールが行われるし、福島は聖火リレーの出発地点でもある。しかし多くの競技や人気種目は東京とその周辺で行われる。
 いい経験になるといい、タダ働きをさせる大会ボランティアの応募は年末に締め切られた。宮城県では新たに震災の「語り部」をボランティアに取り込み、駅や空港で被災体験を語らせるという。日常生活も元に戻っていないのに、被災体験だけが都合よく扱われようとしているのではないか。
 帰りのゆりかもめには、仕事を終えた建築作業員たちが乗り込んできた。五輪は雇用を生み出した。しかし、そのヒト、モノ、カネを被災地のために使ってほしいと思うのは私だけではないはず。夢を与えるのもいいが、もっと大事なのは現状を見つめること。今でも東京五輪の開催には反対だ。【中西奈緒】

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