ニューヨークの地下鉄には、アート作品で飾られた駅が多い。中でも2ndアベニューラインは常設パブリックアートでワールドクラスの美術館ともいわれている。ラッパ水仙やモクレンなど、大きく壁面いっぱいに描かれたモザイク画が目を引くナンシー・ブルムの作品—すごい迫力。
 写真そっくりに巨大な肖像画を描くチャック・クロースは2・6メートルもの自画像など12人のポートレートを…、タイルで人種のるつぼニューヨークを再現するのは、ブラジル出身のヴィック・ミュニッツ。サリーを着た女性や建設作業員、ビジネスマン、手をつなぐゲイカップルなど実物大のニューヨーカーがいっぱいだ。
 この冬新たに写真家のウィリアム・ウェグマンが加わった。彼はペットのワイマラナー犬を擬人化した作品で有名。犬は人間のごとくジャンパーやレインコートを着て、乗客を真正面から眺めているようだ。
 1904年の開通時、ニューヨーカーを地下鉄での移動に勧誘するため、駅構内を美しい場所にしたことが地下鉄アートの始まりで、85年にはアート部署が設立された。アーティスト選びはウェブサイトで公募。新進気鋭、著名に関わらずポートフォリオを送る。メトロポリタン美術館に作品が並ぶような著名な作家も例外でないそうだ。
 MTAの交通機関内では310個ものパブリックアートが設置されている。材質はモザイクやセラミックなど耐久性の高いもので、ほとんどがオリジナル作品という。こんな情報を得ると、そのためだけにニューヨークに行きたくなる。駅アートのハシゴってどんなだろう—
 ずーっと昔にロシアの地下鉄に乗ったことがある。旧ソ連時代のこと。地下100メートルも深く下りていくエスカレーターはスピードが速く、ちょっと恐かった。深く掘ったのは、核シェルターの意味合いもあったらしい。駅構内は広くて天井は高く、シャンデリアやフレスコ画で飾られ宮殿のような趣きがあり、これもカルチャーショックであった。
 比べようもないわが日本の地下鉄を思い出す。私が通勤し始めた頃の大阪の地下鉄は梅田から御堂筋線に乗るのに毎朝、張り巡らされたロープに沿って押し合いへし合いして並ばなければならなかった。今は昔の話である。【中島千絵】

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