参加したパネリストと主催者(左から)荒井陽一・内閣官房参事官、上田東一・花巻市長、メアリー・ズーニック氏、海部優子・ジャパンハウス館長、高橋尚成氏、武藤顕・総領事、ロバート・シェパード氏、佐藤健志・喜多方市教育部参事、千葉善博・大船渡市消防士、デリック・チャップマン・LA消防士
 ジャパン・ハウス・ロサンゼルス(海部優子館長)は9月25日、在ロサンゼルス日本総領事館、内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局、日本国外務省とともに、スポーツ、文化、教育の側面から日米間交流について考える特別パネルディスカッションを開催した。イベントは2020年東京五輪に関連して内閣府が推進中の「ホストタウン」の仕組みを紹介するとともに、24年にパリ、28年にロサンゼルスへと続く将来の五輪大会にそのコンセプトが引き継がれるきっかけを発信した。

東京五輪のホストタウンとは?
東京五輪の参加国・地域との人的・経済的・文化的な相互交流を図る地方自治体が登録を行い、それに対して国が支援をする枠組み。15年11月の登録開始から現在までに全国442自治体が独自の計画を示してホストタウン登録を行った。相手国および交流内容はそれぞれに任され、これまでに培った友好都市の関係を基礎としたプランもあれば、新たに国際交流への興味や関心を高めるためのプランもあり、自治体の特色により計画はさまざまだ。相手国・地域の数は今のところ152で、登録は今後も継続する。
 このホストタウン442件の中で注目されるのが、「復興ありがとうホストタウン」と「共生ホストタウン」だ。「復興ありがとうホストタウン」は東日本大震災の被災3県からの自治体、「共生ホストタウン」はパラリンピックに代表される共生社会の実現に向けた交流促進をする自治体への称号で、前者は25件、後者は20件が登録済みである(19年8月末現在)。
 今回のイベントはそのうち「復興ありがとうホストタウン」を焦点とし、25件中で米国を相手国とする自治体から代表が米国を訪れた。東日本大震災に際して世界各地から援助の手が差し伸べられ、それら援助は草の根の団体や個人のレベルからも寄せられた。「復興ありがとうホストタウン」の自治体は、多くが震災時の援助を受けた国を相手とし、支援への感謝、力強く復興の道を歩んでいることの報告、そして、与えられた善意へのお返しを「ホストタウン」という形で表わそうとしている。
 

復興の町の思い
約100人の聴衆が見守る中、パネルとして登壇した3組計8人は、それぞれの町の震災と復興のエピソードと、五輪への思いを紹介した。

固い握手を交わす大船渡市の千葉消防士(左)とLA市のチャップマン消防士

 岩手県大船渡市から来米した大船渡消防署司令補の千葉善博さんは、LA郡消防局のデリック・チャップマン大隊長と並んで登壇し、LA消防隊との縁について話した。
 大船渡市地方には30年以内に90%の確率で地震・津波が来ると言われていたので、10年3月にアメリカで救助の訓練に参加し、1年後の11年3月にも再訓練に渡米する予定だった矢先に震災が発生し、その日から昼夜を問わずの救助活動が始まったという。
 「トレーニング予定先の米国から逆に救助隊が駆けつけ、4日間一緒に救助活動を行った。米国の隊員は親身で、日本語で『あなたの家族は大丈夫ですか』と声をかけてくれさえした。その時の救助隊をアメリカ本土から指揮していたのが、チャップマンさんだった」
 他にも、大船渡市にはボストンのボランティア団体から延べ1500人が来日し7カ月にわたって瓦礫の処理や民家の修復に従事したという。震災前の姿を取り戻そうしつつある大船渡市は、これらの縁から米国をホスト国に選び、様々な交流を続けている。
米国ボートチームをホストする喜多方市の佐藤さん(右)と元USボートチーム選手のシェパードさん

 福島県喜多方市教育部参事の佐藤健志さんは、92年の五輪でボートの米国代表だったロバート・シェパードさんとともに登壇し、喜多方市が東京五輪の米国ボートチームを招待している経緯について、「美しい水と美味しいコメのある、小さな地方都市だが、70年の歴史をもつボート場がある」と喜多方の知られざる特色を紹介した。今年8月に東京で世界ボートジュニア選手権に出場した米国チームが喜多方に寄った。「地元の中高生が一緒にボートを漕いだ。また、和太鼓など喜多方の文化でもてなした。世界レベルの選手と交流して子供たちには大きな経験となった。来年の本番でもボートを通じて交流したい」
 それを受けて、先月に喜多方を訪れたシェパードさんは日本の美しい田舎の自然の中でチームは素晴らしい旅ができたと言った。
 岩手県花巻市からは上田東一市長、今夏に甲子園出場を果たした花巻東高校野球部から主将の中村勇真さんと投手の野中大輔さん、姉妹都市アーカンソー州ホットスプリング市のディレクター、メアリー・ズーニックさんが登壇し、両市の交流と花巻の魅力を紹介し、来日の折にはぜひ花巻を訪れて欲しいとアピールした。被災地出身の少年がたくましい若者に成長し、花巻東高校から甲子園に出場した。彼ら自身が復興の象徴のようで眩しかった。
 
ホストタウンから返す「ありがとう」
ゲストスピーカーとして登場した 高橋尚成さん(元大リーガー、アナハイムエンジェルス)「五輪を通じてスポーツの素晴らしさと、お互いを尊敬し『ありがとう』の気持ちを常とする日本人の良さを体験してもらいたい」と言った。また、花巻の2人の高校生球児には、「ぜひ大リーガーを目指して欲しい」と勇気づけた。
ゲストスピーカーの元大リーガー高橋尚成さん

 すでに米国ボートチームと交流を始めている喜多方市のほか、花巻市と大船渡市は事後交流として米国陸上チームを迎える予定。このパネルでは画像による紹介にとどまった南相馬市は米国サーフィンチームをホストすることが決まっている。また、五輪事務局は、この夏に24年五輪開催地のパリでもホストタウンのPRを行ない、世界規模で取り組みへの認知を高めようとしている。
「グローカル」という新語がある。世界を巻き込んでいくグローバリゼーション(世界普遍化)と、地域の特性を考慮していくローカリゼーション(地域限定化)の二つの言葉を組み合わせた造語である。地域視点で行動しつつ、必要に応じて地球規模の視野で考えることが出来る市民の育成、という含みから鑑みると、「ホストタウン」のプロジェクトは日本各地のローカルタウンが、東京五輪という地球規模のイベントを通じて実施する「グローカル化の取り組み」といえる。
 ホストタウンで始まった点と点の交流が、グローカルに、やがて地球規模の大きな相互理解となり、お互いの違いを認めながら、より良く生きるためのメソッドになると良いと思う。28年のLA五輪ではホスト側となる米国で、何ができるかを考え始めよう。【長井智子、写真も】
花巻の魅力をアピールする(左から)上田市長、高校生の 中村勇馬さんと野中大輔さん、姉妹都市ホットスプリングのズーニックさん

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