鮭イクラ丼(左、$11.95)とにぎりずしコンビネーション($15.19)を持つ入船のオーナー&シェフ、小林智子さん
 新型コロナの拡大防止措置による収入減少が原因か、ストレスが原因か。営業制限の打撃にあえぐ日本人飲食店オーナーを強盗という二重の不幸が襲った。襲われた2店の店主は、それでも強く立ち上がり、営業を続けている。お客さん、コミュニティー、仲間の励ましがあればこそ。温かい心ざしがあり、新しいつながりがある。苦難の中にも見つけることのできる宝がある。

小林さんがホールドアップに遭った銀行のドライブアップATM
 トーレンスのダウンタウンで和食店「入船」を経営する小林智子さんは17日夜、ガーデナのユニオンバンクのドライブアップATMでホールドアップに遭った。現金を取り出して窓を閉めようとした時にどこからともなく男が現れ、長いドライバーのような工具で小林さんを脅し、「金を渡せ!」と要求した。間一髪で窓を閉めると、今度は携帯電話より少し大きいサイズのピストルを取り出したという。慌てて車を発進してその場を離れた小林さん。難を逃れたと思ったが、男が車で追いかけてきているとは夢にも思わなかった。犯罪者は複数犯と思われ、逃走用の車を用意していたのだ。住宅街の信号で追い付かれ、車から降りてきた同じ男に2度目の攻撃を受けた。男は工具で車をたたき、ドアをこじ開けようとするなどした。小林さんは車を急発進して必死に逃げ、ニューガーデナホテルの車寄せで急行した警察に保護された。小林さんは自身のフェイスブックに「拳銃を向けられた時に、生まれて初めて死ぬ恐怖を体験した。頭の中が真っ白ではなく真っ黒になった」と記述し、このトラウマ的出来事の衝撃を表現すると共に、同じような目に遭う人がいないように注意を促す目的で襲った男や車の特徴を発信した。
閉店後のかしわラーメンの店内をのぞき込む不審者2人。その後ガラスを割って侵入した
 コスタメサのラーメン専門店「かしわラーメン」は同じ日の深夜、店が泥棒の侵入を受ける被害にあった。アラーム会社と警察の連絡を受けて店主の山内啓充(やまのうち・ひろみつ)さんが駆け付けると、店のガラス扉は割られ、レジのPOS機(キャッシャー)は壊され、翌日の営業用に置いてあった多少の現金やアイパッドが盗まれるなどしていた。営業終了後で店内は無人だったことがせめてもの救い。店の防犯カメラには2人組の男がバールのようなものでガラスを割って店に侵入する様子やPOS機を床にたたきつけて壊す生々しいシーンが写っている。
 「普段だったら、同じモールには深夜まで営業している飲食店があるのだが、今はどこもコロナで早終いをしているので」と、山内さん。店のある一帯はいつもにぎやかで、同モールでも過去6年間はこのような事件はなかった。
 新型コロナ拡大防止の営業制限や外出制限が長引き、生活のゆがみがこのような犯罪に結びついているのではないか。今まで人通りのあった場所が閑散としている様子も徐々に見慣れてきて、社会がソーシャルディスタンシングを保ちながらもオンラインやバーチャルの活動を徐々に開始し、窮屈ながらも少しずつ活気を取り戻す明るい面がある一方で、隙間をつく犯罪が増える負の側面があることを、2店の飲食店経営者が受けた災難が物語っているようだ。
ガラス扉が壊されたかしわラーメンの店頭
 特にATMで襲われた小林さんのケースは一つ間違えば大変なことになったかもしれないショックな事件だ。一緒に現場を見分した警察の見解も犯行は複数犯で、銀行ビルの裏手にあるATMを見張り、格好の被害者が現れるのを逃走用の車の中で待ち受けていたというもの。最善の判断をし、車を発進し、恐怖に打ち勝ちホテルに車を寄せるという行動をとった小林さんの勇敢な行動が光る。「でも、本当に怖かった。これからは夜間に一人で出掛けないなど、身の危険がどこにでもあると心得て行動する」と話す。小林さんは気持ちを強く保ち、ショックに負けることなく変わらず店の営業を続けている。
 このような災難の中で、取材に応じた2人は共通して、この事件を知った仲間や、顧客や、知らない人までが、次々と心配や勇気づけの電話や連絡をしてきてくれた、と話した。
 山内さんは、「最初に同じモールのピザ店が自店のSNSで『隣人が被害にあった。この店を助けよう』と発信してくれた」と話す。その後、お客さんの中から、「僕はガラス屋だが無料で直してあげようか」「レジの修理なら僕ができるよ」といった申し出をもらい、設備はすでに修理済みでお願いすることはなかったが、温かい心ざしに胸を打たれたという。
コロナの営業制限は飲食店経営者を窮地に陥れている。従業員が店に戻ってくる日のために、ひいきの常連客に支えられながら、経営者は必死に店を守っている。
 「強盗なんかに負けていられるか、という気持ちです」と山内さんは言う。
 2店はまた、大変な経営の中でシニアや医療従事者向けに特別価格を設定してコミュニティーに貢献する志の持ち主でもある。

値段の安さが定評
トーレンスの割烹入船

店先に立つ入船のオーナー&シェフ、小林智子さん
 新鮮な刺し身や「カジュアル御前」に、値段の安さが定評のトーレンスの「入船」は、これまでも安かった料理の値段をコロナの非常事態の期間中はさらに引き下げ、毎日のスペシャルをフェイスブックやインスタグラムを通じて知らせている。例えば「天然いわしの塩焼き弁当」(当日のスペシャル)5・50ドル、鮭いくら丼11・95ドルなど、驚くほどの低価格で提供している。さらに「65歳以上のシニアにはランチタイム10%引きにしています」と話す。午前11時半から午後8時半のラストオーダーまで、休みなく営業している。
 注文は、電話310・782・7330、テキストは310・218・6975。
 Kappo Irifune
 231 Cabrillo Ave UNIT 107
 Torrance, CA 90501
 www.instagram.com/
 www.facebook.com/Kappo-Irifune-430721053774115/

3種のラーメンで勝負
かしわラーメン

見舞いに駆け付けた友人のブライアンさん(奥)が注文したビールのカップを持つ山内さん
 鶏白湯スープと濃厚豚骨スープ、昆布でだしをとった和風ラーメンで勝負する「かしわラーメン」は電話注文のほか、グラブハブとポストメートを通じて配達も可能。インスタグラムを見たと言えば15%オフ。また、ごく最近、カリフォルニア州の規制緩和によりテイクアウトでビールの持ち帰りができるようになったので、サッポロ生ビール24オンスを2・50ドルで提供中。ラーメンと生ビールとは最高の組み合わせだ。同店では、医療従事者にはBOGO(一つ買ったら一つ無料)を実施している。営業は午前11時から午後9時まで。電話657・232・0223。
 The Kashiwa Ramen
 1420 Baker St #C Costa Mesa, CA 92626
 www.instagram.com/kashiwaramen/
 www.facebook.com/TheKashiwaRamen/
 thekashiwaramen.com
【長井智子】

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