北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの父、横田滋さんが今月5日、87歳で亡くなられた。めぐみさんの拉致から42年、妻の早紀江さんが会見でおっしゃられた通り、「全身全霊」で拉致被害者の救出運動に尽力された。
 もう17年も前になるのだが、拉致問題解決への協力を求め、被害者家族がロサンゼルスを訪れた際に取材をする機会に恵まれた。
 北朝鮮から拉致被害者5人が24年ぶりに日本へ帰国した約半年後の2003年4月、その他被害者の生存をめぐる真相解明が進まず、日朝交渉が膠着(こうちゃく)する中、被害者家族は、国連人権委で拉致問題解決への協力を求めるために渡米した。その間に、横田滋さんら被害者家族4人は、ロサンゼルスで市民との対話集会に参加された。会場が300人以上で埋まる関心の高さで、事件の真相を知り驚く人や解決への協力を申し出る人もいた。
 帰国直前の家族らと話した時の、忘れられないエピソードがある。ふと映画の話になり、横田さんは、自分が映画好きで、めぐみさんが行方不明になる前はよく一緒に鑑賞に出掛けていたと話してくれた。好きなハリウッド映画は、スピルバーグ監督の「セービング・プライベート・ライアン」だとも。この映画は、第二次世界大戦時のノルマンディー上陸作戦を舞台に、4兄弟のうち3人が戦死したライアン家の末っ子の二等兵を、戦場から母親の待つ祖国に連れ戻すため、政府の命令を受けた8人の精鋭が命を懸けて最前線に挑む、実話に基づいた映画だ。
 横田さんは、「アメリカの人はそういった感覚を持っておられるのでしょうね」と涙ぐまれた。犠牲を払ってまでも一人の命を救う一国のポリシーを、母国の現状に重ねていたのだろう。対話集会では参加者から、なぜアメリカに来てまで拉致問題を訴えなければいけないのか、との質問も出たが、アメリカの力に頼らざるを得ないもどかしさを一番強く感じていたのは被害者家族だったに違いない。
 次回は北朝鮮から帰った家族と一緒にロサンゼルスを訪れたい、とも話しておられた。父親の訃報を知っためぐみさんの気持ちを思うと、胸が締め付けられる。【平野真紀】

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