同店が入居するビルの前の横断歩道を渡る抗議デモ参加者=3日
 ロサンゼルス市内の3カ所で日本食レストラン「Yuko Kitchen」を経営する渡辺悠子さんは、5月30日未明、ダウンタウンの5街とサウス・メイン通りの角にある店舗でガラスを割られるなどの被害に遭った。ミネアポリス警官によるアフリカ系米国人男性拘束死亡事件に端を発した抗議運動に紛れ、LA各所でも破壊行為や略奪が発生。日本人経営の店も無差別的に攻撃対象となった 。「自分の店は自分で守る」。渡辺さんは悪行を続ける暴徒に立ち向かった。

Yuko Kitchen目掛けて石を投げる暴徒ら(同店インスタグラムより)
 29日の抗議行動は平和的に行われると聞き、 車で10分程度の距離にある家に安心して帰宅していた。ところが夜中の1時に 店舗ビルのオーナーから連絡を受け、店が攻撃されていることを知った。市警による道路の閉鎖で近づけず、ようやく着いた時には、辺り一帯の店が被害に遭った後だった。同じビルに入る小さなリカーショップは中まで荒らされていた。
 店舗の上のアパートの住人が録画した動画を見せてくれた。マスクをつけた4、5人の若者が、ガラス張りの店を目掛けてがれきや石を投げ付ける様子が映っていた。 驚いたことに、客として店を利用していたアパートの住人の姿もあった。撮影者が発したのか「ノー! 」という叫び声が響き渡る。「皆、石を投げながら『これは自分たちのレボルーションだ』と言っていた。何かに対して怒りを抱いていた様子だった」
  散乱したガラスの破片を渡辺さん渡辺さんが片付けるその横で、別の若者がやって来てヘラヘラと笑いながら無差別的に物を投げたりスプレーで落書きをしたり悪行を続けた。怒りで震えながら「やめて! あっちへ行って! 」と追い払い続けたが、人種も性別も入り交じった複数の若者は引き下がりもせず全く意に介さない。中には手が血だらけになった者、酒の瓶を握っている者、何かしようと隙を狙っている者もいる。アドレナリンが出ていたのか不思議と恐怖は感じなかった。「助けを呼ぼうにも真夜中で呼べない。自分の店は自分で守る」と必死だった。
ベニヤ板で防御された同店(渡辺さん提供)
 幸い店内への侵入は防げていた。今にも「プチンと切れてしまいそう」だった気持ちを抑えるため店の中で待つことにした。「外では銃声がバンバンと鳴り響き、まるで戦場にいるような状態が続いた」。車が5街の一方通行を無視して走行し、辺りは無法状態になっていった。午前4時半ごろになると「ベニヤ板を積んだ車が通り掛かり、400ドルで買わないかと言ってきた」。壊された部分をふさぎたい一心で渡辺さんは手持ちの金額を提示し修理を頼んだ。その後も、盗みたてのような厨房機器を売り付けに来たり、ガラスを直そうかと言われたりと「まるでこうなることが分かっていたような人たちが次々とやって来て、何が正しいのかわからなくなった」
 被害から2日たち、起きたことに対し怒りを感じる一方で、「こうなるには理由があった」とも思う。「Covid19が始まってからこの3カ月、お金もなく学校へも行かなくなった若者が増えた。彼らの不満が募っていたことはすごく分かる。その集団が共感し団結して抗議運動に便乗した結果起きたことだと感じている」
  20歳で単身渡米し10年後に店を開いた。それから11年、数々の困難を経験してきた。昨年末には従業員の1人が3年に渡り金を盗んでいたことが判明。新型コロナ、そして今回の被害と不運は続いた。
 「ショックは大きいけれど、それを受け止めて進むしかない。怒っても被害者になって泣いていても仕方がない。ムーブオンしなければ」。渡辺さんは自らを奮い立たせるように力を込めた。【麻生美重】

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