奴隷制を美化している、と抗議を受けたHBOが『風と共に去りぬ』を解説動画付きで配信するようになった。
白人警官による黒人男性殺害事件に端を発した差別抗議は文壇や映画界にも及んでいる。
原作の『風と共に去りぬ』(三笠書房)が最初に日本語に訳されたのは1938年(昭和13年)。
初訳本では黒人奴隷の召使マニーさんはこんなふうに話している。
「どうして夕食を食べていかれるようにお勧めにならないですだ、スカーレットお嬢さま」
原文にはこうある。
「Huccome you din’ ast dem ter stay fer supper, Miss Scarlett?」
(How come you didn’t ask them to stay for supper, Miss Scarlett?)
なぜ語尾が「です」でなくて「ですだ」になるのか。
翻訳文学研究の第一人者、国語学者の(きんすい・さとし)阪大教授はこう書いている。
「外国文学に出てくる登場人物の言葉を訳す時、翻訳者はその人物の社会的地位を考慮に入れた『役割語』を使っている」(『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』、岩波書店)
マニーさんの「ですだ」は、彼女が南部の黒人奴隷であることを考慮に入れた「役割語」ということになる。
なぜ「疑似東北弁」なのか。
東北で高校の歴史の教師をしていたH氏(サンフランシスコ在住)はこうコメントする。
「東京弁を強引に標準語にしたのは明治政府。その政府のお偉方が抱いていた東北に対する上から目線の差別意識が日本社会に浸透している現れだ」
東北蔑視説は脇に置くとして、ではマニーさんの南部黒人訛りの英語をどう訳したらいいだろうか。
「風と共に去りぬ」の舞台は南北戦争真っただ中のジョージア州。いっそのこと、翻訳では南部を薩摩藩に置き換えて、裕福な名主の家で働く「女奉公人」が喋る薩摩言葉にでもしたほうがぴったりくるかもしれない。【高濱 賛】