市民団体の「ストップ・AAPI・ヘイト・レポーティング・センター」によると、コロナ禍でAPIに対する差別は増加しており、8週間で約1900件が報告されたという。
羅府新報はホーラバック!の共同創設者でエグゼクティブ・ディレクターのエミリー・メイ氏と、AAJCの戦略的イニシアチブ・ディレクターのマリタ・エキュバニェス氏を招いてオンライン対談を実施した。これまで1万人以上にオンラインの無料トレーニングを提供したという両氏に、API差別に対抗する取り組みについて話を聞いた。
―両団体の目標と今回の事業提携について
エミリー ホーラバック!は、分野や形態を問わず、全てのハラスメントの撲滅を目指し活動している団体。AAJCと提携できることを誇りに思っている。
マリタ 事業提携を開始したのは、数年前にさかのぼる。2016年の選挙時に勃発したヘイト関連事件に対処するために結成された連合として、お互いに協力していた。現在は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、
―ホーラバック!のトレーニングを採用した理由は?
マリタ トランプ大統領やそのほかの指導者たちが、新型コロナウイルス感染拡大を中国のせいにしようとした影響で、アジア系米国人コミュニティーに対する憎悪があおられているのを実感している。事実、多くのアジア系コミュニティーが標的にされている。私たちは、業務の一環として、過去数年間、ヘイトクライムに焦点を当て、主に連邦の立法案を文書化する支援を行ってきた。しかし、同時に直接影響を受けている人々にも、情報や資料を提供したいと考えている。このトレーニングは、差別に対して人々ができることを、具体的かつ積極的に提供する絶好の機会であり、自分がヘイトクライムに巻き込まれた場合に備えて準備するだけでなく、他者を助ける方法を学ぶこともできる。
―なぜ、このトレーニングが重要なのか?
エミリー 嫌がらせに遭遇すると、人々は己の無力さを感じることが多い。しかし、これまでの受講者の99~100%が、受講後には「自分にはハラスメントに対処するためにできることがある」と答えている。
また、ハラスメントへの介入は、全て直接的でなければならないと考えている人がほとんどだが、私たちが行っているトレーニングでは、五つのアプローチの内、四つが間接的で、差別をしている人に向かって、「あなたは人種差別主義者だ」「それは間違っている」「それは良くない」などと直接言うことはない。直接的ではなくても、ハラスメント受けている人をケアする有効な方法がある。
傍観者介入トレーニングは決して新しい手法ではない。まさに他者をケアするという考えに基づいている。だが、ハラスメントとなると行き詰ってしまうことがあり、そこからどうしてよいか分からなくなることがある。このような状態から脱するためにトレーニングが作られた。
―五つのDの方法論とは何か?
エミリー 「ディストラクト」「デリゲート」「ドキュメント」「ディレー」「ダイレクト」のこと。まず、「ディストラクト(注意をそらす)」―ハラスメントが起きている現場で注意をそらして状況を緩和させる。「デリゲート(委任する)」―第三者などに助けを求める。次に、「ドキュメント(記録に残す)」―記録を作成しハラスメントを受けた当事者に渡すこと。そして「ディレー(間をあける)」―ハラスメントが発生した後、言葉または表情や仕草などから、当事者を観察する。最後に「ダイレクト(直接介入)」―直接的に行動する。以上の工程である。
―なぜ、直接的な介入は、第5ステップに設定されているのか?
エミリー 直接的な介入を最終設定にしているのは、介入する人も社会において疎外されている人たち(女性や有色人種、LGBTQなど)であることが多く、彼らにもハラスメントが向けられる可能性が高いため。また、直接的な介入はあくまでも一つの戦略に過ぎず、間接的な方法でハラスメントに介入する方法がいろいろある。例えば、被害者をケアすることはとても大切だ。ただ、そうは言っても正面から対峙することは、非常に重要な介入になる可能性があることは間違いない。
―トレーニングには、「傍観者介入」の他に「問題の段階的緩和」「アジア系差別への対応方法」の計3種類があるそうだが、これらを提唱している理由は?
マリタ 私たちは、これまでの受講者の声をもとにプログラムを作成している。初期には「素晴らしい内容だったが、自分がハラスメントを受けた場合はどうすればよいのか」。また、「コミュニティー内で、ほかの人がハラスメントを受けた場合に対応できるようにするにはどうすればよいのか」といった質問があった。
―「問題の段階的緩和」トレーニングについて
エミリー 「問題の段階的緩和」トレーニングは、数日間の対面式セッションで行うのが理想だが、今は現状を鑑みて、オンライン上の仮想プラットフォームを通じて、より安全に基本的な情報を提供したいと考えている。
問題の段階的緩和において、私たちが提唱しているのは、観察、呼吸、つながり。まずは、何が起こっているかを観察すること。「相手の立ち振る舞いや動作はどうか?」「相手のボディーランゲージは攻撃的かどうか」「相手は攻撃的な言葉を使っているか」「相手はどのくらいヒートアップしているか」。そして、ヒートアップのピラミッドを作り、そのピークを見定めること。
呼吸は、自分が、そのヒートアップのピラミッドのどこにいるかを気付かせてくれる上、人権を無視して他人を攻撃し侮辱する人に遭遇したこと、私たちができること、このような事件が自分に影響を与えることなどを認識できる。ピラミッドにおける自分の立ち位置を自覚し、自身を落ち着かせることができれば、次に適切なステップに進む手助けをし、つながりへと導いてくれるはずである。
―「傍観者」は、ハラスメントを行う人と、どのようにつながるのか?
エミリー 他人に対して攻撃的な人とつながることは、率直に言って難しい。あなたの人間性を見ようとしない相手を知ることは、さらに上のレベルの作業となる。あなたが他人とつながるためには、まず、彼らの憎しみに満ちた発言ではなく、感情をとらえるようにすること。彼らの暴言は、自分を見てほしい、話を聞いてほしいという本質的な欲求から生じていることを認識し、憎しみではなく、欲求に焦点を当てることが望ましい。
―新型コロナウイルスの世界的感染拡大は、差別増加にどのように影響しているか?
エミリー 今、たくさんの人がストレスを受けている。財政、食料、住宅に対する途方もない不安は、全ての人に影響を与えており、このような先の見えない世界においては、内なる人種・性差別が引き出されることがある。まさに、それがハラスメント増加の一因になっていると思う。
―アジア系差別について、APIのコミュニティーに伝えたいことは?
マリタ まずは、自身のハラスメントの経験や、不安や心配事を共有してほしい。もし警察や弁護士への通報・届けを検討している場合でも、私たちのAAJCなどの団体に報告することは可能だ。コミュニティー内の出来事を私たちが把握すれば、どんな問題が起こっているかを状況に懐疑的な政策立案者たちに知ってもらうことにつながる。また、ハラスメントを目撃したり、遭遇したりした際に自身で対応するだけでなく、他者をサポートするための戦略や戦術を学ぶことができるようにするためにも、ぜひ、「傍観者介入トレーニング」への参加検討をお願いしたい。
―では、APIのコミュニティー以外の人へのメッセージは?
マリタ これが汎用性の高いプログラムだということ。アジア系米国人コミュニティーだけでなく、米国の歴史における有色人種差別や、そのほかのコミュニティーへの差別を理解しようとする人たちへの懸け橋となる機会を提供している。アジア系米国人コミュニティーのために構築しようとしている安全性は、全ての人のために構築すべき安全性と同じであるという点を、トレーニングにおいても明確に定めている。
エミリー アジア系以外の人々には、現状の差別はコロナ禍での一過性の出来事と思わないでほしい。また、これまでアメリカで差別されてきたアジア系米国人の歴史や経緯を知ってほしい。現在、私たちはコミュニティー内で起こった被害などに取り組んでいるが、最終的には、永続的な解決を目指している。ぜひアジア人とアジア系米国人のコミュニティーで起こるハラスメントと、他のコミュニティーで起こるハラスメントの違いを学んでいただきたい。困難な時代だが、ここから永続的に差別を減らす方法に関する知識を実践に移し、今後も活動に取り組んでいきたいと思う。
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「傍観者介入トレーニング」は、無料で受けることができる。申し込みは「ホーラバック!」のウェブサイトwww.ihollaback.org/bystanderintervention/から。ヘイト被害、犯罪の報告、および新型コロナウイルスにおけるアジア系差別関連情報・資料の閲覧はAAJCのサイトwww.advancingjustice-aajc.org/covid19から。